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四十七話 【連絡】

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 結局、また彪世さんの世話になってしまった。
 俺は一人じゃ何もできない。
 無能。
 そんな俺を、あの人が甘やかしてしまうからダメなんだ。

「……あー、頭いてぇ」
「大丈夫? はい、お水」
「……ども」

 俺と同じくらい酒飲んだはずの彪世さんは朝からピンピンしてる。
 どんだけ酒強いんだ。この人、酔えるの? ザルなのか?
 まぁ酔っ払いの看病なんてしたことないから、その方が助かるけど。

「彪世さん……これから仕事、ですか」
「うん。暮凪君はどうする? このまま寝てる?」
「……いいんですか?」
「起きれそうにもないでしょ?」
「……すみません」

 情けないけど、頭痛くて動けそうにない。
 気持ち悪いし、横になっていたい。

 彪世さんは簡単に飯の用意だけして、仕事に出ていった。
 毎回この朝の忙しい時に俺の飯なんか作っていかなくていいのに。まぁ彪世さんの美味い朝飯に在りつけるのは有り難いことだけど。

「……」

 俺はチェストの上に置かれた携帯に手を伸ばした。
 着信はない。
 やっぱり俺から連絡するべきだろうか。
 透把に、謝るために。
 でも、何て。
 あの女は透把が俺のこと気にしてるみたいなこと言ってたけど、本当か?
 確かに彪世さんやあの女の言う通り、俺らはここまで大きな喧嘩はしたことない。
 だから、お互いにどうしたらいいか分からないんだ。
 謝り方も、終わらせ方も、何も分からない。
 何も、分かってない。

「……やべぇ」

 手が震えてる。
 携帯を持ってるだけなのに、何だよこれ。
 お前に連絡を入れることをこんなに怖がる日が来るなんてな。
 訳わかんねーよ。

「てゆうか俺、着拒されてるんだっけ」

 忘れてた。
 まだ拒否られてんのかな。そしたらこっちから連絡入れても意味ない。
 どうする。これじゃあ話なんかできない。
 その方が、いいのかな。
 でも、このまま何も変わらないでいいのか?
 彪世さんもちゃんと話し合った方が良いって言ってた。
 正直、このままでもいいかなって気はある。
 だけど彪世さんが昔の友人と仲直りしたっての聞いて、俺自身も前に向かなきゃいけないような気もしてる。
 アイツが望むなら、俺らの中を終わらせる。
 ちゃんと、未練のないように。
 お互いに胸にしこりを残したままじゃ、何も前に進めない。

 俺も、アイツも、喧嘩の終わらせ方を分からないままじゃダメだ。
 ダメ、なんだよな?

「……あー、ダメだ」

 俺、自分の言葉がどこにあるのか分からない。
 彪世さんに言われたから。
 あの女が言ってたから。
 だから、そういう風に思ってるだけなのかもしれない。
 まぁそれキッカケで考えるようになったんだとは思うけど、そう思うだけ。

 結局、何も実行できてない。
 俺は携帯を投げ捨て、そのまま床に寝ころんだ。

「ダメだな、俺は」

 一応、俺から連絡をしなくてもどうにか出来る方法はある。
 でもなぁ、アイツ頼るのは何か嫌だ。
 余計に友達面されそうだし、調子に乗らせたくない。
 だけど、拒否されてる以上はどうにもできない。
 透把の家に直接行くのも一つの手だけど、いきなり行くのはなんかな。
 ちゃんと話を付けに行くのであれば、前もって連絡を入れるべきだろう。
 俺にもアイツにも、色々と心の準備は必要だろうし。

 いや、そうじゃないな。
 俺に勇気がないだけだ。直接会いに行くとか無理。
 これで会いに行ってガン無視されたら、絶対に立ち直れなくなりそうだし。

「……仕方ない。仕方ない、のか……」

 とりあえず、二日酔いが治ってからだ。



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