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十二話 【酒】
しおりを挟む目が覚めたら、もう夜中だった。
俺は帰ってきてからほぼ一日も寝ていたのか。
「……腹、減った」
昨日からロクに飯食ってないもんな。
そりゃ腹も減るか。
俺は着替えを済まし、昨日着てた服をゴミ箱に捨てた。
あの女の匂いが付いて、もう着たくない。
鼻に付く香水の香りで吐き気がする。こんなの、何回洗っても来たいとは思わない。気持ち悪いだろこんなの。
昨晩のことを嫌でも思い出してしまう。
思い出して、また吐きそうになる。
出掛ける前にシャワーでも浴びるか。熱いお湯を浴びてスッキリしたい。
重たい体を引きずるようにして、俺は浴室へと向かった。
シャワーの温度を高めに設定して、頭から熱いお湯を浴びる。確か、何かのテレビで熱いお湯を浴びると目が覚めるとか何とか言っていた気がする。
確かに頭の中がスッキリする。
目が覚めるし、気も引き締まる。
あとはさっきから鳴りっぱなしの腹をどうにかしないと。
俺は浴室を出て、さっさと着替えを済まして家を出た。
髪がまだ乾いてないけど、まぁいっか。
◇
バーに着くころには髪も乾いていた。
店内に入り、いつも通りカウンターに座る。マスターは俺に気付き、いらっしゃいませと声を掛けてシェイカーを振った。
昨日は一滴も酒飲んでないからな。今日はその分飲んでやる。誰が声掛けても無視だ。今日はそんな気分じゃない。
「どうぞ」
「え」
「約束ですから」
マスターが出したのは、俺がまた飲みたいと言ったカクテル。
俺はそれを一口飲んで、深く息を吐いた。
美味い。
やっぱ酒だな。酒があれば生きていける。
酔って、嫌なこと忘れてしまいたい。
「マスター、なんか腹に溜まるものを……」
「畏まりました」
もう空腹のせいで腹が痛くなりそうだ。
暫く待つと、この前マスターの家で食べたスープと俺がよく頼むパスタを出してくれた。この食欲を誘う匂いがたまんない。
俺は掻き込むように飯を食った。
そして酒を注文し、腹を満たしていく。
パスタとスープを食べ終えてからは、軽いつまみを頼んで酒を飲む。
今日はとにかく飲む。吐くまで飲む。
酔い潰れて、何もかも忘れるんだ。
「マスター、おかわり」
「畏まりました」
マスターは苦笑いしながら酒を出してくれる。
今日は飲まなきゃやってらんねーよ。
美味い飯食って、美味い酒飲んでるってのに、昨日の夜のことが体中にまとわりついてる。
気持ち悪くて仕方ない。
女に触れた感触なんて覚えていたくない。今すぐに忘れたい。
やっぱり、断れば良かった。
アイツの頼みとはいえ、あの女とまた会うなんて絶対に嫌だった。
断りきれなかったのは、アイツが俺の弱みだから。
本当に、なんでこんなことになる。
俺が悪いのか?
俺があんな仕事してるから。
俺が、ゲイだから。
だから、こうなるのか?
でも、こうなったものは仕方ないだろ?
俺は透把が好きだ。
女も大嫌いだし、この仕事も今更止める気はない。
今以上に楽に稼げる仕事があるなら別だけど、そんなものない。
俺にはもう、他に何も出来ないんだ。
「マスタァー、酒ー」
「大丈夫ですか? そんなに荒れた飲み方して」
「いいんです。酔い潰れたら、その辺捨てといて……」
「それは出来ませんよ」
だろうな。
そんなことしてこの店が叩かれでもしたら困る。
まぁ、そんな心配はないだろうけどな。
あと少し飲んだら、帰るか。
そんでタクシー拾って、家帰って寝る。
暫くは何もしたくない。
そうだ。この辺に引っ越そうかな。
バーの近くに引っ越して、そしたら酔い潰れても直ぐに家に帰れる。
それがいいかもな。
今度の更新までにどっか探すか。
ぶっちゃけ、引っ越しとか面倒だけど。
俺はグラスに入った酒を飲み干し、追加で頼んだ酒に手を付ける。
体の奥が熱い。
酔いが回ってきたか。頭がボーっとしてきた。
でも、まだだ。
まだ足りない。
もっと、もっと、俺の頭を狂わせてくれ。
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