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七話 【初恋】
しおりを挟む透把と会ったのは、中学の入学式。
そのときから俺は人とズレていて、明らかに浮いていたと思う。
てゆうか、馴れ合いとかしたくなかった。
その頃から俺は、自分がマイノリティであることに気付いていたから。
人と違うことに、不特定多数の人間が思う当たり前に馴染めないことに、気付いていた。
だから、誰にも近付いてほしくなかった。
人と、周りと違う自分は、誰とも仲良く出来る訳ないと思っていたから。
別に俺は自分が人と違うことが嫌だと思ったことはない。ゲイであることを恥ずかしいと思ったこともない。ただ、周りから奇異な目で見られるのが嫌なだけ。偏見とか軽蔑とか、そんな風に見られるのは勘弁だ。
だから俺は、自ら孤立することを選んだ。
集団で行動しようとする奴らを無視し、俺はずっと黙ったままでいた。
その誰も近付くなって雰囲気を察したのか、誰も俺に話しかけようとする奴はいなかった。遠巻きに見て、適当なこと言ってるだけ。
まぁ、別の意味で変な奴だと思われていたかもしれない。
それでもゲイであることを知られて、それを噂されているとかそういうんじゃなければいい。
特に中学生とかそれくらいの時期は偏見とかそういうの強いだろ。
周囲にそういう奴らが多ければ、みんなそれを信じてしまう。
それが当たり前だと信じて、何も疑わない。
だから好きになるのは異性だけだと思ってるし、同性を好きになるのは変だと、異常だと思ってる。
それが、『普通』なんだ。
そして、俺が『異常』なんだ。
「なぁ」
そんなことを考えていたら、不意に声を掛けられた。
いきなりでビックリした俺は、反射的に顔を上げて声をした方に向いた。そこに居たのが、透把。
まだまだ成長期前で背も小さい方だった。顔つきも幼くて、小学生が紛れ込んだみたいだと、当時の俺は思った。
「……なんだよ」
「俺、箕波透把。お前の前の席なんだ」
そう言って透把は俺の前に座った。
なんだ、それだけか。だったら黙って座れよ。
俺は小さく溜め息を吐いて、もう一度顔を伏せた。
無視すれば他の奴みたいに俺なんか放っておいてくれるだろう。
そう、思っていた。
「なぁ、無視すんなって。お前の名前は?」
「……」
「どこ小? 俺、第一北小学校」
「……」
「俺の家、学校から近いんだ。お前んちは?」
「……」
「なぁってば!」
両手で顔を掴まれ、グイッと無理やり上を向かされた。
目を見開く俺を見て、透把はニコニコと笑うばかり。
なんだ、コイツ。
変な奴。
正直、最初の印象は最悪だった。
「無視するなって。な、お前の名前は?」
「……離せよ」
「なーまーえ」
「……暮凪」
「暮凪か。よろしくな!」
透把は俺から手を離し、ハハっと笑う。
なんでコイツ、こんなに俺に構うんだ。放っておけばいいのに。
「なぁ暮凪、なんで皆から声掛けられても無視するんだよ」
「……めんどい」
「めんどいって……そんなんじゃ社会に出てから苦労するぞ!」
「知るかよ。大体、中学でどうこうしたって意味ないだろ」
「そんなことないだろ。友達とか」
「いらねーよ、そんなもん。どうせ卒業したら忘れるような、そんなものだろう」
「んなワケないじゃん。俺の兄ちゃん、中学の頃からの友達と今でも仲良いぞ。もう二十歳過ぎてるけど」
人との付き合い方なんて人それぞれだろ。
他人がどうとか俺には関係ない。
今度は分かりやすく溜め息を吐くと、透把はムッとした顔をした。
何が気に入らなかったのだろう。
俺としては、そうやって他人にズケズケと踏み込んでくるお前の方が気に入らない。
「暮凪、そんなんじゃ一生寂しいままだぞ」
「俺は大勢でいる方が嫌いだ」
「じゃあ、一人でもいいから友達作ればいいじゃん」
「必要性を感じない」
「俺はお前と友達になりたいよ。だって、なんか面白そうだし。それに放っておいたらいつか一人で死んじゃいそうだし」
「失礼な奴だな」
「まぁまぁ。良いじゃん、もし友達に必要性を感じないと思ったらまた無視してくれていいよ」
そうまでして、なんで俺に構うんだ。
本当に馬鹿だよ、お前。
それから俺らは、友達として付き合うようになった。
透把は毎朝俺に声を掛けてくるし、俺の親が夜仕事でいないことを聞くと、自分の家で飯食っていけよと誘って来たり。
世話好きというか、なんというか。
お節介なんだよ。まぁ、色々と世話焼いてくれたおかげで楽が出来たり、アイツの親にもお世話になった。
そのおかげか、俺の親とアイツんちの親も仲良くなった。
俺自身も、変わった。
正直、今でも友達が欲しいとは思ってない。
大勢と一緒にいるのは嫌いだし、馴れ合いなんてゴメンだ。
でも、透把は別。アイツと一緒にいると安心する。
透把がいないと、俺はマトモな生活が出来ない。
俺は、当たり前のように。
他のみんなと同じように、当たり前に、普通に、恋愛をした。
透把に、惚れたんだ。
誰にも言えない気持ちを、一生抱えていく。
そう、誓ったんだ。
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