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最終話 【これから先の話】
しおりを挟む呉羽と会って、数日後。
俺らは日が暮れたことに公園で会うようになった。
呉羽は力を制御できるようになったとはいえ、まだ完璧ではない。あの兄貴分の男みたいに角を隠したり服装を変えたりすることが出来ないらしい。
その辺は俺が口を挟めることじゃないので、呉羽に頑張ってもらうしかないんだけど。
まぁそういう訳だから人気のない日暮れの時間に会うようにした。
また結界とやらの中に入れば他の奴に見られる心配はないんだけど、あの奥は時間の流れが違うから普通の人間が入るのはあまり良くないそうだ。
正直そういう話をされても理解できないんだけどな。俺からすれば非現実的な話だし。だからといってそれを否定する気はない。それは呉羽の存在を否定することにもなるから。
「けーご!」
「よう、呉羽」
公園に行くと、ベンチに座っていた呉羽が俺の元に駆け寄ってきた。
なんでこうも嬉しそうにするかな。俺はニヤけそうな口元をギュッと引き締めて、一つ息を吐いた。
「学校、お疲れさま」
「別に疲れるようなことはしてねーよ。お前は何してた?」
「あのねあのね」
今日あったことをこうして互いに話すのが日課になろうとしてる。
大学ではまた俺の機嫌が良くなったことで宏太が彼女出来たとか寄りを戻したとか勝手なこと言って騒いでたけど、そもそもフラれてないし。
あのとき、俺も呉羽のことを好きだって言ったけど、コイツはそういうの分かってないんだろうしな。
ただ好き。それで終わり。付き合うとか恋人とか、そこから先のことを知らない。
俺も呉羽のことは好きだ。
直接会って、言葉を交わして、その想いは強くなった。ずっとそういうんじゃないって自分の気持ちを否定してきたけど、もう偽る必要はない。
ないんだけど、その先の説明をどうすればいいのか分からない。
まず呉羽は鬼だし、人間である俺と付き合っても良いのかそうかも分からない。
だから、とりあえずは一緒にいられればいいのかなって感じだ。
「ああ、そうだ。呉羽、これ」
「え? わっ」
俺はカバンから帽子を取り出して被せた。
さすがに女物の服を買う勇気はなかったから、今はこれで我慢してほしい。
「……これ」
「角だけでも隠せた方が良いだろ。まぁ、無いよりマシかなって」
「嬉しい、ありがとう!」
呉羽は嬉しそうに笑った。
安物だけど、喜んでもらえて良かった。
だけどこれで終わりじゃない。俺の本命は、こっちだ。
「ほら」
「え?」
「開けてみ」
俺はさっき小さな紙袋を呉羽に渡した。
初めてのプレゼントにするには高いものだけど、格安のにしてるからそこまで痛い出費でもない。
なんて説明をしたところで今の呉羽には分からないだろうな。
「……なに、これ?」
「箱開けて」
「あける……?」
「こうやって上にあげて……」
「おお」
呉羽が箱をカタカタさせたり耳に当てたり訳の分からないことしてた。知らないことが多いからか、呉羽の行動は見てて飽きないな。
箱が開き、中に入っているものを見て呉羽は驚いた。予め俺が持ってるやつを見せておいて良かった。多分、初見だったら何なのか分からなかっただろう。
「……けーご、これ」
「そう、スマホ。お前にやるよ」
「で、でも……こういうのってお金がかかるんじゃ……」
「お前が気にしなくていい。別にそこまで高くもないし、連絡取れないと不便だろ」
呉羽はスマホと俺の顔を交互に見て、瞳に涙を浮かべた。
黙って受け取ってくれ。俺だってバイトもあるから毎日ここに来れるわけでもないし、今までと違ってメールのやり取りが無くなった分、呉羽が一人になる時間も増えた。
それに、呉羽が好きだと言ってくれた写真も送ってやりたいしな。
「……迷惑だったか?」
「ううん! ううん、嬉しい……とても、嬉しい……ありがとう、ありがとう、けーご……」
「使い方、教えてやるから」
「うん!」
呉羽はスマホをそっと胸に抱いて、満面の笑みを浮かべた。
その顔が見れれば、十分だ。
俺はまた写真を撮ろうと思えるし、毎日が楽しいを感じられる。全部、お前のおかげなんだ。
お前が届けてくれたんだ。俺の、幸せを。
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