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第33話 「にんげん」
しおりを挟む「……ん?」
何だろう。知らない気配がする。
それに、いつもは消してる苓祁兄の気配も物凄く感じる。もしかしてわざと、かな。
私は気配のする方へと近付いていった。
苓祁兄と一緒にいるのは誰だろう。私達以外の鬼でもいたのかな。それとも結界の中に入っちゃった人間でもいたのかな。
いや、相手が人間ならこんな威圧感を与えるような気配の出し方はしない。そんなことしたら人間が苦しくなっちゃう。苓祁兄はそんな酷いことをする人じゃない。
じゃあ、何が起きてるんだ。やっぱり他にも鬼がいたとか。それで喧嘩でもしてるとか。
気付けば私は走ってた。
揉め事だったとして、私に何が出来るのか分からない。それでも黙って見過ごすことも出来ない。
「……いた!」
遠くに人影が見えた。
そこにいたのは、苓祁兄と頭が黄色い人間だった。
何をしているんだ。というより、誰なんだろう。迷い込んだ人間だとしたら、すぐに気絶させて元の場所に返してあげるはずなのに、それをしないなんて。
「苓祁兄!」
「よう」
「何してるんだ?」
「んーちょっとな」
苓祁兄はさっきまでの威圧感を抑えて笑った。
目の前で苦しそうにしていた人間はその重圧から解放されたからか、膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。
心配だけど、人間に鬼の私が駆け寄るわけにはいかないよな。
「れ、苓祁兄! なんでこんなことするんだ! あの人、苦しそうじゃないか」
「まぁまぁ。こうすれば簡単には逃げられないだろ」
「は? ここに迷い込んだ人間は元の場所に返してやらないと……」
「迷い込んだんじゃないぞ。俺がここに連れてきたんだ」
「はぁ!?」
何を言ってるんだ、苓祁兄は。人間に鬼だって知られるのは良くないのに、それをわざとやるなんて。
人間の方は無事みたいだけど、まだ話せる状況じゃないみたい。
「俺はコイツを始末する」
「……え? な、なんで?」
「なぁ、お前はずっと一人の人間のことを思って泣いていたな」
「……それは」
「俺も考えたんだよ。どうするのがお前のためになるのか。俺たち鬼がちょっと威圧しただけで人間はこのザマだ。どうしたって一緒にいられない。それは分かるよな」
「……う、うん」
「でもお前は深入りしてしまった。それで、思ったんだ。現況が消えればいいんだって」
何を言ってるんだ。現況ってどういう意味だ。
私が首を傾げていると、後ろにいた人間がぴくりと動いた。
「…………く、れは……?」
え。
どうして、この人から私の名前が出てくるの。
恐る恐る、私は振り向いた。
何でだろう。胸が痛いくらいドキドキしてる。
人間で、私の名前を知ってる人。
そんなの、一人しか思いつかない。
「けーご……?」
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