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第28話 【望み】
しおりを挟む「相津さん、お前のこと気に入ってたぞ」
「マジっすか」
常盤先輩は楽しそうにそう言った。
相津さんは常盤先輩がアシスタントをしてるプロのカメラマン。今回、特別に俺もバイトとして雇ってもらえたが、ほぼ荷物持ちだった。
まぁ専門知識もほぼない俺に頼める仕事なんてそれくらいだし文句はない。むしろプロの仕事を間近で見れて楽しかった。
「あの人、ずっと仏頂面で何考えてるのか分からなかったんですけど」
「アハハ。口数の少ない人だしな。でも褒めてたぞ、よく動く奴だって」
「そう、ですか。まぁ迷惑にならなかったんであれば良かったですけど」
「最初は見た目で軽く引いてたらしいけどな」
「……それは、仕方ないっすね」
俺の顔は基本的に第一印象良くないだろうからな。特に今日は緊張で余計に顔が強張っていたし。
でも、来て良かった。
カメラを構える姿勢とか、熱意とか、なんか色んなものが伝わったような気がする。
「どうだ、なんか得るものはあったか?」
「そう、ですね。光の当たり方とか角度とか、そういう微妙な違いで印象が変わるのが面白かったですね」
「そうだな。お前、食い入るように見てたもんな」
「……はい」
そりゃあプロの現場なんて滅多に見れるものじゃないし、興味はあるさ。
普通に仕事出来てることを忘れてしまいそうだった。素直にカッコいいと思った。
「俺、大学卒業したら海外に行ってみようと思うんだ」
「え、マジですか」
「ああ。色んな景色を撮ってみたいと思ってな。そのために今は貯金しまくってる」
「へぇ、凄いですね」
「お前も行くか?」
「先輩とっすか。きついっすね」
「アハハ! 俺もお前と二人旅は嫌だわ」
常盤先輩が大口を開けて笑った。
さすがに海外は遠いな。金もかかるし、言葉も分からないし。
でも、海外の景色か。
その言葉を聞いて俺が思ったのは、呉羽のことだった。
アイツ、遊園地すら知らなかったもんな。海外の、海の向こうにある国のことも知らなさそうだよな。
そういうの見たら、アイツは喜ぶんだろうか。
俺の行動範囲なんて家と大学、それとバイト先の行き来だけ。この間の遊園地みたいに遠出することもない。写真のネタもワンパターンになるし、なんか珍しいものを見せてやりたいな。
「俺はまず国内旅行から始めて見ます」
「日本にも色々あるもんな。京都とか楽しかったぞ」
「あー良いですね」
各地の観光名所を巡るのも楽しそうだな。
でも、そういうのって写真で見るより自分の目で見た方が楽しいかもしれない。
アイツ、本当に俺の写真だけで満足してんのかな。
呉羽んちの事情を俺は全く知らない。なんで遊園地すら知らないのかも、何も。顔も声も知らない。
だけど、写真でしか見たことのない景色を見せたらメチャクチャ喜んでくれそうだなって勝手に思ってる。
顔なんて一ミリも知らないのに、楽しそうに笑う呉羽を想像してしまってる。
俺、ちょっと気持ち悪いな。
会えるわけないのに。呉羽に自分を偽って接してるくせに、何考えてるんだ。
会いたいとか、俺が望んでいいわけがないのに。
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