「とどいてますか」

のがみさんちのはろさん

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第12話 【らしくない】

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 翌朝。携帯のアラームに起こされた俺は、欠伸をしながらダラダラと着替えを済ました。
 昨日はほぼ一日中、呉羽とメールしてたな。
 なんか最近は時間がすぎるのがあっという間に感じる。こういう感覚、どれくらい振りだろう。ガキの頃は無条件で毎日が楽しかったのにな。

「なんか、調子狂う……」

 本当にもう、最近の俺は変だ。
 なんだ、この真面目な俺は。今までの俺からしたら異常だ。俺らしくない。呉羽のペースに呑まれてしまってる。
 別にそれが嫌だっていう訳じゃない。というより、それをイヤだと感じていない俺に違和感。
 どうしちゃったんだ、俺。メールを受け取った直後は悪戯だと思っていたのに。それを逆にからかってやろうって思っていたのに。
 今じゃこのざまだ。ガキの言葉に一喜一憂して、普通に楽しんでしまってる。
 相手はただのガキだぞ。ぶっちゃけ、本当にガキかどうかも分かんないんだ。

 いや、嘘を吐くような奴じゃないとは思ってる。アイツの言葉に嘘とか偽りを感じられない。
 本当にもうこれで呉羽が男でしたとか子供じゃなかったりしたらどうしよう。それを思うと、結構ショックだ。
 完全に俺は騙されてることになる。ほんの数日メールしてただけなのに。
 何だ、これ。本当にマジで変だぞ、俺。

「……嘘ついてるのは俺の方なのにな」

 呉羽にとっての俺は、真面目な良い人。実際の俺は適当に毎日を過ごしてるだけのクズ。
 これ知ったらショックだろうな。

「ガキを騙して、何してんだろう」

 かと言って、呉羽とのメールを止めたいとは思わない。
 向こうが止めると言ってくるか、連絡が来なくなるまでは続くと思う。

「……はぁ」

 違和感。
 今の俺には違和感しかない。何かスゲー気持ち悪い。こんなの俺じゃない。俺じゃないだろ。
 いや、元々喧嘩が好きな訳でもないんだけど。荒れたくて荒れてた訳でもない。なんか色々巻き込まれて、今に至ってる。
 まぁ喧嘩した後はムカつく相手ぶん殴れてスカッとするけど。

「俺、何したいんだろ」

 本当にそれ。自分が何をしたくて生きてるのか全然わからない。
 来年の俺は何をしてるのか、想像もできない。呉羽が大人って何か聞いてくるもんだから、俺まで悩んじまったじゃねーか。

「まぁいいや」

 ここで俺が悩んだって無意味だ。俺は支度を済ませ、パンを口に銜えて部屋を出た。
 そうだ。メール送っておかないと。ポケットに突っ込んだ携帯を取り出し、呉羽にメールを送った。内容はいつも通り、朝の挨拶と学校に行ってくるってことだけ。
 家を出て駅まで数十分。その間に呉羽から返信が届く。
 そういえば、俺がメール送ると直ぐに返事寄越すな。常に携帯見てるのか? 呉羽って、本当に何してるんだろ。


―――

――

 大学に着いて教室に入ると、宏太が俺に気付いて駆け寄ってきた。お前もヒマだな。俺にばっかり構ってんじゃねーよ。

「なぁなぁ、圭吾!」
「断る」
「まだ何も言ってないだろ!?」

 言わなくても分かる。
 コイツがこういう調子で声を掛けてくるときは大体何かしら頼み込んでくるときだ。マジで面倒臭い。

「けーいーごー」
「何だよ」
「聞いてくれるのか!?」
「聞くだけだぞ」
「そう言わずにさ! 今度の休み、一緒に出掛けないか?」

 休みの日に出掛けるとかないわ。
 俺、休みは極力外に出たくないんですけど。お前に構ってる時間があるなら呉羽とメールしてる。

「行かない」
「なんでだよ? まさかデートか!?」
「だから、そのネタウザい。彼女なんかいないって言ってんだろ」
「だったら良いだろ? フジが遊園地のチケット貰ったらしくてさ、みんなに声掛けてるんだって」
「絶対に行かない」
「お前、大人数苦手だもんな」
「苦手なんじゃない。嫌いなんだよ」

 別にアトラクションとか好きじゃないし。おまけに休日はメッチャ人混むだろ。誰が好き好んでそんな場所に行かなきゃいけないんだよ。
 そんなところに行くくらいなら酒でも飲みに行こうぜ。それだったら行ってもいい。

「……あ」
「ん? どうした、行く気になったか?」
「……やっぱ保留」
「え、マジ!? なに、どうしたの? この一瞬に何があったんだ!?」

 別に行きたくなった訳じゃない。ただ、遊園地の写真撮って送ったら呉羽が喜ぶかもしれないとか思っただけだ。
 てゆうか呉羽の為に行きたくもない遊園地に行くとかどうなんだ。そこまでしてやる義理はないだろ。何思ってんだ俺。何考えてんだよ、俺。
 異常だ。こんなの俺じゃない。俺らしさはどこに消えたんだ。

「……おい、圭吾? どうしたんだ?」
「……何でもない。とにかく、一応参加だけはしてやる」
「マッジで!? 圭吾来るって聞いたら他の奴らも驚くぜ! 俺、フジに報告してくる!」

 宏太が意気揚々と教室を出ていった。
 俺は深く溜め息を吐いて机に突っ伏して少しだけ後悔した。呉羽に写真送るのは別にいい。多分、アイツは喜びそうだし。
 ただ、あまりにも俺らしくないことをしてる自分に戸惑いを隠せない。
 何これ、マジで。
 本当に俺? これ俺なの?
 一人のガキの為に行動するとか。キモい、俺。

「……仕方ねーか」

 もう参加するって言ってしまった。まぁ一回くらいはいいだろ。
 そう、一回きりだ。
 これっきりだ。



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