悪役令嬢ルートから逃れるために家出をして妹助けたら攻略対象になってました。

のがみさんちのはろさん

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番外編

大好きなお姉様

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 運命だと思ったんです。
 あの日、目の前に現れたあのお方を見たとき、自分の中で欠けた何かがぴったりとハマるような感覚がしたんです。

 誕生日パーティで起きた魔法での襲撃。あのとき私を助けてくださった人。フードで顔を隠していたので誰なのかは全く分からなかったけれど、物凄く胸が騒いだのです。

 それから馬車でチェアドーラ国に向かう最中でも落石から助けてくれました。
 リカリット国でも助けてくださいました。

 五歳の誕生日を迎えた日、お姉さまが城から消えました。
 自ら出て行かれたのか、それとも何者かに攫われたのか。理由は分からないまま。
 何年経ってもお姉様は見つからず、お父様からも捜すことを諦めろと言われてしまいました。そして次期国王としての役目を果たすようにと言われるようにもなりました。
 私は消えてしまった姉の分まで、大切な民のために頑張ろうと決めました。お勉強もお稽古も頑張りました。
 毎日、毎日毎日毎日。

 毎日、同じことの繰り返し。
 不満があるわけではないのに、心がどんどんすり減っていくような気持ちでした。

 そんなとき、あのお方が現れたのです。
 私のピンチを救ってくれた仮面の人。
 ドキドキして、一気に世界が鮮やかなものに変わった。こんなにも心が弾んだのは初めてでした。
 平穏な日々に革命を起こしてくれたのです。
 顔も名前も分からないお方にこんな気持ちになるなんてお父様に知られたら怒られてしまうかもしれない。それでも、あの人を想う気持ちを止めることが出来なかった。

 建国記念日のパレードが行われたとき。
 私を襲おうとした少年から私を守ってくれた。
 身を挺して、命懸けで。

 どうしてそこまでしてくれるんだろう。不思議で仕方なかった。
 私の運命の人がもし死んでしまったらどうしよう。混乱する国民たちを宥めながら、そんなことばかりを考えていました。

 まさか、その相手がお姉様本人だったなんて夢にも思っていませんでした。
 だけど、不思議と納得してしまったのです。
 だって私たちは双子。どんなに離れていても、その絆が断ち切れることなんてないんです。

 だけど、お姉様が何度も過去を繰り返していたことや異世界から、転生? していたことには驚きました。
 だけどお姉様はお姉様です。
 私の大切なお姉様。優しくて世界一カッコいい、私だけのお姉様。

「お姉様にお願いがあるんですけど」
「なに?」

 王位継承式を済ませ、正式にこの国の女王となってからもお姉様はたまに顔を出してくれます。
 最近では人払いをして、部屋でお茶を飲んでくれるようにもなりました。
 双子だというのにお姉様はカッコよくて黒い衣装も着こなしていて素敵です。やっぱりお姉様以上に素敵な方なんて知りませんわ。

「お姉様、その衣装をご自身で作られたと言ってたでしょう?」
「そんな話もしたわね」
「それで、今度のパーティーに着るドレスをお姉様に作ってほしいのです」
「私が!? 別にいいけど……女王の着るドレスでしょう? 私みたいな素人が作っちゃっていいの?」
「良いんです。私はお姉様の作ったドレスが着たいのです!」

 以前、お姉様がお洋服を自分で作っているというお話を聞いてからお願いしたいと思っていたんです。
 特別な日に特別なドレス。なんて素敵なのでしょう。
 今度のパーティーは私が王女になってから初めて開かれるものなので、気合を入れたいんです。お姉様に傍にいてほしいけどそれは出来ないので、せめてお姉様を近くに感じられればと。

「……仕方ないわね。可愛い妹の頼みだし、作ってあげるわ」
「お姉様……! ありがとうございます!」
「シャルは女王として頑張ってるんだから、姉としてそれくらいの頼みは聞いてあげないとね」
「とても嬉しいです。こうしてお姉様をもう一度お話しできるようになっただけでなく、お姉様の手作りドレスを着れるなんて……」
「シャル……寂しい思いをさせてごめんなさい」
「いいえ。お姉様にはお姉様の選んだ道があります。こうしてお姉様がいてくれれば、寂しくなんかありませんわ」

 本当は城に帰ってきてほしいけど、そうなっては国は大騒ぎになってしまう。
 どんな理由であれ国民たちに心配をかけてしまうのは王のすることではありません。それに、お姉様のお話では繰り返してきた過去の中に私を支持する人たちがお姉様を暗殺したこともあったそうです。
 だったら余計に、お姉様はこの国に戻るべきではありません。
 この十八歳のときにお姉様がまたお亡くなりになることがあったら過去に戻されてしまう。そんなの、嫌です。

 私はお姉様と未来を生きたい。
 お姉様の中に眠る、もう一人のベルお姉様と共に。

「お姉様」
「何よ」
「大好きです」
「……はいはい。私も可愛い妹が大好きよ」

 そう言って、お姉様は私の頭を撫でてくださいました。
 やっぱり、お姉様が一番素敵。

 世界で一番、大好きです。


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