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第102話
しおりを挟む「ベルお姉様……大丈夫ですか?」
「……ええ。平気よ、大丈夫……」
私は深く息を吐いて顔を上げた。
目の前には不安そうな顔をしたシャル。その後ろにレベッカとツヴェル、ナイトにグレン。みんなが心配そうにしている。
もう大丈夫。私は笑顔を浮かべて、シャルの手を取った。
「ごめんね、シャル。いきなりで訳分からないと思うけど、私の話を聞いてくれる?」
「え、ええ……勿論ですわ」
「他の皆も、いいかしら」
「は、はい。私は大丈夫です」
「僕もです。貴女の話ならいくらでも」
グレンも興味なさそうにしながらも黙って頷いた。
ナイトは一緒にベルの記憶を見ていたから説明をする必要はないだろう。
「それじゃあ……聞いてね。私の……ヴァネッサベルのことを」
私はここにいるみんなに全てを話した。
何度も同じ時間を繰り返してきたこと。その中でヴァネッサベルが何を思い、何をしてきたのか。
それぞれが複雑な表情を浮かべていた。私も話してて胸が痛くなった。見てきたことを改めて言葉にするのは物凄くキツイ。それでも伝えたい。
あの子が生きていたことを、あの子の生きた証を。多くの人の心に、残したい。
私は話している最中、シャルは顔色を変えなかった。いいえ、違うわね。必死に耐えていた。泣くのを、我慢していた。
彼女なりに自分を守ろうと、国のために悪の道を自ら進んでいった姉の記憶。
この時間軸では起こることはなかった、阻止された出来事。それでも、確かに起きていた真実。
全てを話し終えると、部屋に沈黙が流れた。
誰も口を開かない。開けない。何を話せばいいのか分からないんだ。
「……お姉様は、全てを抱え込んでいたのですね」
「シャル……」
「私は、何も知らないままでした。何も知らず、聞かされず、父や大人達の言う通りに生きてました。そうする事が正しいと思ってきました。国の皆が幸せになると……」
「……そうね。確かに皆は幸せかもしれないわ……でも、貴女は?」
「……お姉様」
「変えられるのは貴女よ。貴女はこの国の次の王なのだから」
私はシャルの肩をそっと掴み、彼女の目を見つめた。
そう。未来を築くのは、シャルロット。それを支えてくれる人達もいる。
大人に利用されるだけの未来なんて誰も望まない。
「お姉様……お姉様は、戻ってきてくださいますか?」
「シャル……」
「私一人じゃ、出来ません……国を変えるなんて大きなことを……」
「いいえ。貴女なら出来る。シャルにしか出来ないことよ」
「そんな、そんなの……」
「出来る。信じて」
「お姉様……」
私は貴女のことを知っている。
皆が貴女を愛してる。貴女も皆のことを愛してる。
ベルもそれを望んでる。
シャルには人を惹きつける力がある。彼女の言葉には強い意志がある。
誰かに歪められた道じゃなくて、正しく前を向くことが出来れば、貴女はこの国を導くことが出来る。
だって貴女は、このヴァネッサベルの双子の妹なのよ。姉が国を支配することが出来たのだから、貴女にだって出来るわ。
それと、私にはやらなきゃいけないことがあるの。
「私はこの国にはいられないわ。お尋ね者になっちゃうから!」
「え?」
「あの子、連れて帰るわね!」
「え、ちょっ! ベルお姉様!?」
「ノヴァ!」
「がう!」
私はシャルの頭をポンポンと叩いて、ルシエルの眠るベッドに駆け寄った。
この子はシャルを殺そうとした罪人。このままここに居れば牢獄に入れられ、いずれは処罰される。
そんなことはさせない。シャルが王女になったとしても、彼を特別扱いしたら周りに何を言われるか分からない。
私はこのまま家出を続ける。ルシエルをキチンと療養させたいし、家出した姫が戻ってきても快く思わない人もいるだろう。
ベルにとってこの国は、守りたかった国でもあり、自身を苦しめた場所でもある。シャルには悪いけど、今の国にはいられないわ。
「また来るわ。女王になった貴女に会いにね」
ルシエルを抱え、ノヴァの背に乗って窓から飛び出した。
いつ兵が部屋に入ってくるか分からないし、善は急げって言うからね。
「お、お姉様! 私、頑張ります! 必ず、立派な国王になって今よりもより良い国へとしてみせます! そうしたら、また戻ってきてくださいね!」
後ろから聞こえてくるシャルの声に、私は振り返らずに手を振った。
大丈夫よ。貴女はこの世界に愛されたヒロイン。
世界だって変えられるわ。
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