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第99話
しおりを挟む意識が引っ張り上げられたように覚醒し、私は目を覚ました。
目の前には眠ったままのルシエル。そして眠たい顔をしているナイト。
戻ってきた。夢から覚めたんだ。
「お姉様?」
「レベッカ……」
「あの、これ……」
レベッカが慌てて差し出したのは、淡いピンク色のハンカチだった。どうして、って言おうとしたけれど、すぐにその理由が分かった。
私の目から、ボロボロと大量の涙が溢れ出ている。自覚した途端、一気に悲しみが押し寄せてきて泣くのを止められなかった。
私、こんな事をしている場合じゃないのに。それなのに全身にベルの思いが満ちて、苦しい。
ベル。ベル、まだ私の中にいてくれてるよね。お願いだから、消えないで。私の魂なんて消えてしまっても良いから。
貴女が既に死んでいるから消えてもいいというなら、そんなの私だって一緒じゃない。私だって元の世界で死んでいるのよ。
この体を、貴女に返すわ。
「…………シャルロットは、どこ?」
口が勝手に動いた。
何、どういうこと。ベルが喋っているの。
ベルの意識がまだ残ってる。まだ生きているのね。
「最後に、謝りたいだけよ」
私の声が届いているの?
ベルは誰からも話しかけられていないのに、急に話し始めた。
「…………お前、ヴァネッサベルか」
後ろからナイトの声がした。私、いいえ、ベルは振り返って頷いた。
ここにいるみんなは本来のベルを知らない。レベッカは何がどうなっているのか分からず、慌てふためいている。
「……ごめんなさい、レベッカ。今の貴女に何を言っても無駄かもしれないけれど……」
「お、お姉様?」
「どうか、幸せに……」
ベルはレベッカに向かって頭を下げた。
やり直した過去の一つに、レベッカを騙して処刑させている。そのことをレベッカが知るはずもない。急に謝罪されても意味が分からないだろう。
あとでちゃんと話してあげるわ。きっとレベッカは、許してくれるはず。
「……ヴァネッサベル様。シャルロット姫とお会いしたいのですか?」
「ええ。早く……時間がないの」
ツヴェルが冷静に話しかけた。彼もまだ状況を完全に理解できた訳ではないだろうが、私とベルの話し方、微かな音の変化で人格が変わっていることはすぐに分かったのだろう。
でも、時間がないというのはどういうことなの。本当に消えてしまうつもりなの。
ねぇ、ベル。どうすれば貴女の心を守ることが出来るの。
どんなに話しかけてもベルは答えない。
ツヴェルは先にシャルの様子を見てくると言って部屋を出てしまった。そういえばパレードの方はどうなったのだろう。
ベルはツヴェルを待っている間、もう一度ルシエルの眠るベッドへ歩み寄り、彼の手を握っていた。
心の中でずっと、彼にゴメンとありがとうを繰り返しながら。
「…………ルシエル」
――誰よりも愛しい子。
――私の唯一の理解者《パートナー》。
――どうか、生きて。
――これが私の最後の我儘です。
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