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第93話
しおりを挟むまた目の前の時間が一気に流れ、十二年の歳月が過ぎた。
今日は二人の十八歳の誕生日の前日。明日、シャルが王位を継ぐ。ベルの必死の努力も認められず、希少な魔法特性を持っているという理由でシャルが選ばれた。
もちろん、それだけではない。シャルロットは国民からの支持も厚い。誰にでも優しく接し、ベルと同様に勉強も稽古もやってきた。ベルも彼女が王位を継ぐのが相応しいと思っている。
だけど、こう思わずにもいられない。
もしレアスキルを持っていたのが自分だったら。
もし二人の容姿が逆だったら。
そう思いながらベルは生きてきた。そう思うたびに心に重い鉛を一つ落としていきながら。
「ベル様。本当に良いのですか?」
「何が?」
「ベル様だってシャル様に負けないくらい勉強してて、政務だってこなしてます。シャル様のフォローもして、この国のために働いているのに……」
「…………私には人の傷を癒すような力はないのよ」
「そんな……!」
「良いのよ……私は、あの子が幸せになってくれれば」
ベルの精神はもうギリギリのところで保っているようなものだ。心が折れそうになるのを、シャルへの思いで繋ぎとめてる。本当は妹想いの優しいお姉さんだった。だけど、正当な評価をしてくれない周囲の目が、心無い影口が、彼女を追い詰めてしまった。
「……僕は、ベル様の幸せが一番大事です。貴女が笑えないこんな世界なんて……」
「ルシエル……私は貴方がそばにいてくれるだけで十分よ」
「僕は貴女に命を救われたんです。僕の命は貴女のものです」
「……貴方には私の我儘に付き合わせてしまったけれど……もう無理しなくてもいいのよ。私が貴方に味方でいてと言ってしまったから貴方はそれを忠実に守ろうとしてくれているけど……」
「僕は僕の意思で貴女のそばにいるんです。命の恩人だからってだけじゃないです。僕は、ベル様を尊敬しているんです。周りがなんて言おうと、ベル様は素晴らしいお方です。あのときベル様が言わなくても、僕は貴女に仕えるつもりでいました。生涯貴女の味方でいると誓いました!」
ルシエルの言葉に、ベルは泣きそうになるのを堪えた。
ずっと自分のそばにいてくれて、ありのままを見ていてくれた唯一の存在。ベルはそっとルシエルを抱きしめ、頭を撫でた。
出逢ったばかりの頃は自分よりも小さかった背も、今ではすっかり抜かされてしまった。
「大きくなったわね」
「ベル様をお守りするためです。僕には……何故か魔法特性が目覚めませんでした。力のない僕でも貴方を守れるように、強くなりたいと思ったから……」
ルシエルは目覚めの石を使っても魔法特性が覚醒することはなかった。王宮の魔術師に調べてもらったが、原因は分からなかった。
期待されない姫に、力を持たない従者。周囲の目はもっときつくなったが、二人は気にすることはなかった。一人じゃない。二人でいれば、怖いことなんかない。
そう、思っていた。
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