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第80話
しおりを挟む「そうですか。まだ襲撃の犯人が何者なのかも分かっていないのですね」
「ええ。姿を現したことはないので……」
「レベッカ様もキアノ王子からは何も?」
「は、はい。残念ながらいつも魔法による攻撃だけで直接攻撃などは全く……」
ふむ。まずは現状の把握ね。大事なことよ。真面目でしっかりしたところをシャルにアピールして、好感度を上げていってちょうだい。
「そういえば、仮面の男が貴女を救ったという噂を聞いたのですが……その人は何者なんですか?」
おおっと。思わず吹き出しそうになったじゃない。慌てて口元を抑えた私のことをグランが変な目で見てるけど、今は気にしていられない。
シャル、お願いだから変なこと言わないでよ。
「えっと……私も詳しくは存じ上げないのですが……と、とても素敵なお方です……」
「そ、そうなのですか……レベッカ様はその人のことは?」
「へっ!? え、えーっと……リカリット国のパーティで、ちょこっと見たくらいですわ」
「いつも颯爽と現れ、私のことを守ってくださっているのです……私もまたお会いしたいと思っているのですが……」
「シャ、シャル様……落ち着いてください」
駄目だわ。仮面の男の話題になるとシャルは乙女モード全開になってしまう。
レベッカがどうにか落ち着けようとしてるけど、シャルの声色が物凄く高くなっちゃってる。きっと可愛い顔しているんだろうけど、今はそれどころじゃないのよ。
「……もしかして、アンタが仮面の男?」
「へっ!?」
「その話題が出た瞬間、メッチャ動揺してるから」
「ま、まさか……私、女ですよ?」
「……変装とか」
何、何なの、この子は。確かにゲームでもこういう風に淡々と的を射ていく発言をよくしていたけど、洞察力が良すぎる。子供怖い。
「…………もし、そうだったらどうする?」
「別に。だって姫様のこと助けてるなら良い人だし」
「……シャルロット姫に仮面の男の正体をバラしたりは……?」
「しないよ。何か理由があるから正体を隠してるんでしょ」
「…………君は子供なのに、考えが大人だね」
「大人とか子供とかって枠組みに嵌めて考えるのはつまらないよ。俺は俺。それだけでいいじゃん」
いや、やっぱり大人だわ。そういえば、ゲームでも似たようなセリフを言ってたわね。
ベルと戦うことに悩んでいたシャルを慰めるときだったかしら。君は君のままでいいんだって、どっちが王位に相応しいとかは関係ない。君が何をしたいかが重要なんだって。
確かそんな感じの台詞だったはず。自分らしく生きればいいって言葉は、前世の私には響いたわ。毎日毎日仕事ばかりで自由な時間なんて全然なかったもの。
「で? アンタなの?」
「ノーコメント」
「そう。まぁ興味ないから別にいいけど。それで、いつまで聞き耳立ててるの?」
「せめて二人の仲が少しでも進展してくれるまでは……」
「難しいんじゃない? セン兄は仕事で来てるし、私情を挟むようなことはしないと思うよ」
「じゃあ今回は無理ってこと?」
「多分ね。もしかしたらプライベートで会いに来るかもしれないけど」
「そっか……じゃあプライベートで会いに来ることがあったら脈ありってことね?」
「セン兄の方はね。でも姫様は仮面の男が好きなんでしょ?」
痛いところを突くわね。でもそれなら大丈夫よ。
だって仮面の男はシャルに惚れることはないし、魔術師が捕まれば姿を現さなくなるんだもの。
「まぁいいや。俺はそろそろ戻るから」
「あ、うん。じゃあね」
「うん、またね。変なお姉さん」
そう言いながらグランは部屋を出ていった。
変なお姉さんって言われちゃった。てゆうか、またねって言ったよね。もう一度会えるかどうかなんて分からないし、出来れば会いたくない。
貴方も一応攻略キャラなんだからシャルと会って好感度上げちゃってよ。センテッドルートだとグランもシャルのことを好きになっちゃうんだから。
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