75 / 108
第75話
しおりを挟むツヴェルとの通信を切り、レベッカへ手紙を書き始めた。
心配は全くしていないけど、念のため私のことは話さないようにしてほしいということ。それから普通の女の子として接してほしいということ。それとなく気になっている人、仮面の男のことを聞いてほしい。
それから、出来ればロッシュの方がいいんじゃないかとシャルの気持ちを揺さぶってほしいと。ここが一番重要よ。
「それじゃあ、これをレベッカにお願い」
「了解しました」
魔法鳩に手紙を渡し、レベッカへと送った。
急に決まったことだから仕方ないけど、シャルと会う前にレベッカと話をしておきたかったわね。
「がう」
「ん? ああ、お菓子足りなかった?」
「がうがう」
「ええ、もう手紙送っちゃったわよ。手紙の返事が来たら、またレベッカに頼んであげるから待ってて」
全くこの子は毎日レベッカのお菓子をせがむんだから。レベッカだってそんな大量のお菓子焼くの大変なのよ。
今度なにかお礼をしないと駄目ね。まぁ貴族の子に材料費の心配なんかいらないとは思うけど、労働にはしっかりと見返りがないといけないのよ。私なんて何回サビ残したと思ってるの。あんな腹立たしい思いをレベッカにさせられないわよ。
「とりあえず家にあるお菓子で我慢してね」
「……がう」
「何よ。私の作ったものじゃ不満だって言うの?」
「がうがう」
「ワ、ワンパターン!? 同じものしか作れないって言うの!? 確かにパンとかプレーンのシフォンケーキとかクッキーしか作ってないかもしれないけど……山の中じゃ色々と限界があるのよ! 基本的に街で買い物とかしないし……」
そりゃあレベッカは毎回違うお菓子を持ってきてくれるわよ。そりゃもう女子力高めで見た目も可愛らしいわよ。
だからって飽きたはないでしょ、飽きたは。私なりに工夫はしてるつもりなのよ。
そんな話をしていたら、レベッカに送った鳩が戻ってきた。
魔法鳩はいつものように人間の姿になり、手紙を手渡してくれた。それから、大きな袋も一緒に。
「……レベッカったら、本当に気が利いてるわね」
「がう!」
ノヴァがお菓子の匂いに反応して尻尾をパタパタさせた。さすがねレベッカ。タイミング良すぎて私が女子力を発揮する暇もなかったわ。
「ほら、貴方にって。今日はパイを作ってくれたみたいね」
「がうがう」
「分かったって。すぐ準備するから待ってなさい。貴方も、いつもありがとう。籠に戻っていいわ」
「分かりました」
魔法鳩は元の姿に戻り、籠へ入っていった。
私はラッピングされたパイを皿に乗せて、地面に置いてあげた。いつもレベッカはケーキやパイのときは私が食べるように切り分けられたものと、ノヴァ用の大きめのホールを用意してくれる。
キアノは幸せね。未来のお嫁さんがこんなに気の利く良い子で。
「……貴方、甘いものばっかり食べてたら太るわよ」
「がう」
「私? 私は平気よ。毎日畑仕事とかやってるし」
「がうがう」
「嘘、重くなった!? そんな訳ないじゃない」
「がう」
「ふ、太ってないってば!」
ベルの体は絶対に太らないって変な自信があったから油断していたのかもしれないわ。明日からもっと体動かそうかしら。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
暁にもう一度
伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。
ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。
ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。
けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。
『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる