悪役令嬢ルートから逃れるために家出をして妹助けたら攻略対象になってました。

第74話

　ザザっという音がして、私は無線機を手に取った。

「はい。ツヴェル王子？」
『お疲れ様です、ベル』
「貴方もね。それで、シャルは今どうしてる？」
『彼女ならメイド長とキアノ王子に怒られていましたよ。何も言わずに抜け出さないでくださいと』
「そう、なら良かったわ。さすがの私も驚いちゃったわよ」
『やっぱり貴女が姫を見つけてくれたんですね。彼女、多くは語りませんでしたが、ある方が連れ戻してくれましたと言っていました』
「ええ。あの子が城を抜け出すなんて思いもしなかったわ。今は危険な時なんだし、シャルから目を離さないように言っておいてね」
『わかりました。まぁキアノ王子が物凄い形相で怒っていたので、もうしないとは思いますけど』

　怒ったら怖そうだものね。
　これに懲りたら、大人しくしてほしいわ。

「それで、結界の方は？」
『問題なく設置出来ましたよ。魔法による攻撃が来ても弾き返せます』
「そう。でも今回みたいにシャルが抜け出したり、私みたいに姿を隠せるような能力でシャルを連れ去ってしまったら、その結界も意味なくない？」
『ええ、その通りです。そのことをナイトと話して、僕みたいに音に敏感な魔法特性や気配などを感じ取れるものを城の中だけでなく外にも置くことにしました』
「……何だか、仕方ないことだけどこんなに人に囲まれてたらシャルも逃げ出したくなるのかもしれないわね」
『そうですね。心休まる時間がありませんから。なので、キアノ王子が明日はレベッカ嬢を城に呼ぶと仰っていましたよ』
「そうなの？」
『はい。歳の近い女の子が近くにいた方が良いだろうということで……』

　そうね。たまには女の子同士で話をした方がいいかも。
　息抜きになるかもしれないし、シャルが何を考えてるのかどうかレベッカに頼んで聞いておこうかしら。
　気になる人がいるって話はキアノが聞いているし、その辺を探り入れとこうかな。ついでにそれとなくロッシュのことをオススメしてほしい。
　あとで鳩飛ばしておこう。

「……ねぇ、ツヴェル王子」
『何です？』
「もし、貴方が自分の未来を知っていて、誰かを殺さないと自分が生きられないとしたら、貴方ならどうする？」
『……それは、例の予言の話ですか？』
「そうね。あくまで私がそう思っただけなんだけど……予言の……私の知ってるヴァネッサベルが悪逆非道と言われる行動を取っていたのは、ただただ死にたくなかっただけなのかしらって……まぁ、そうは思えないような言動も多かったから、違うんだろうけど」
『……そうですね。僕は、そういう問題に直面したときに答えが出せないかもしれない。自分のために誰かを犠牲にするのは良くないと、今ならそう思うかもしれないけど、そういった状況に陥ったときにそんな綺麗事を言えるか分かりません』
「……まぁ、そうよね。私も同じだわ」

　私はヴァネッサベルが何を思っていたのか、それを知らない。ただ悪いヤツという印象しかない。そう思わせるようなシナリオの中でしか彼女を知らないから。
　まぁ、今は彼女の気持ちを考えている場合じゃないわね。

「変なこと聞いてごめんなさいね。今は魔術師を掴まれることが最優先。予言に何と書かれていようとも、シャルも私も死ぬ気はないわ」
『勿論ですよ。私も全力で貴女方をお守りします』
「頼りにしているわ」

　無線を切って、私は深く息を吐いた。
　そう。死にたくない。死なせたくない。今は、その気持ちだけでいい。
　誰かが描いたハッピーエンドになんか興味ないの。私の幸せは私が決めるんだから。