悪役令嬢ルートから逃れるために家出をして妹助けたら攻略対象になってました。

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
上 下
68 / 108

第68話

しおりを挟む



 一先ず、ナイトに魔法具の話も聞けたし、今日のところはこんなものかしら。
 ゲームでもこの魔法の国で一番強いのはナイト王子だった。その彼がハドレー国に来てくれるなら頼もしい限りだし、私も安心できる。

「それでは、今日はこの辺で失礼させて頂きますね」
「ああ。そうだ、ヴァネッサベル」
「え? わ、私ですか?」

 フルで名前を呼ばれることがないからちょっと驚いちゃったじゃない。
 私は一度背を向けたナイトの方へ振り向き、何の用かと尋ねた。

「お前に夢を見せてきたヤツ、シャルロット姫でなくお前に接触してきたということは、お前の知り合いの可能性が極めて高い。そうだな?」
「え、ええ……多分、そうだと思いますけど……残念ながら思い出せないので」
「夢のことを思い出せなくとも、お前の記憶を読み解くすべはある。お前の過去を全て、お前自身が忘れてしまった思い出も、見ることが出来る」
「……私が、忘れたことも? そんなことが出来るのですか?」
「記憶を見る魔法特性を持っているものもいる。僕はそういったレアスキルの魔法を何かしらの魔法具にして保管しているんだ。あくまでこれは研究目的のためで、本来は人に使用するためのものではないが……」

 この人が敵にならなくて本当に良かった。そんな魔法コレクターみたいなことまでしているなんて、恐ろしい人だわ。

「でも、過去を思い出したところで私は魔術師の姿かたちを知りませんよ」
「ああ。でも、何かしらのキッカケにはなるかもしれないだろ。それに僕は、君自身のことも少し気になってる」
「え、私?」

 やだ、もしかして私の方がナイトとフラグ立っちゃった感じ?
 駄目よ、それは。ツヴェルはともかく、ナイトはメインキャラ。相手はシャルじゃなきゃ。

「ナイト。気になるとはどういうことだ?」
「そんな顔するな、ツヴェル。別に君と同じ理由ではないよ。僕は愛だの恋だのそういったものには興味がない」

 その台詞、ナイトルートの序盤で言ってたわ。ゲーム内で聞いた台詞を生で聞けるなんて恋100ファンとして最高の瞬間だわ。

「じゃあ、どういうことだ?」
「最初に見たときからどうにも違和感があった。そこにいる彼女は確かに本物だ。だけど、偽物のように見えるときもある」
「っ!?」

 驚いた。それはもしかして、もしかしなくても、私の中身なことを言ってるのではないか。
 確かに私自身はヴァネッサベルじゃない。だけど前世で死んで、この体に転生したヴァネッサベルでもある。
 本物だけど本物じゃない。
 偽物だけど偽物じゃない。
 彼の力は、そんなところまで見抜いてしまうのか。本当の本当に恐ろしい人だわ。

「……お話しても、まぁ良いのですが……」

 ゲームのことは伏せればいいかしら。
 さすがに私の前世では、貴方達は物語の登場人物でしたなんて言うのは少し気が引ける。
 もし私の過去を見て、前世のことまで知られたら隠しようがないのだけど。

「全てをお話して、信じてもらえるかは分かりませんよ」
「嘘ならすぐ分かる。僕もツヴェルも」
「ええ。僕は貴女の言葉を疑ったりしませんよ」
「そうね。貴方達二人には嘘言っても無駄だものね」

 それならお話しましょう。
 本当の私のことを。ヴァネッサベルではない、私自身の話を。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...