悪役令嬢ルートから逃れるために家出をして妹助けたら攻略対象になってました。

のがみさんちのはろさん

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第64話

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 ノヴァの鼻を頼りにツヴェルの元へと向かった。
 目的の古書店は路地裏にあり、ノヴァがいなかったらすぐには見つかりそうにないところにあった。
 最初、分かりにくいところにあるので案内しますって言ってくれてたんだけど、ノヴァもいるから大丈夫だろうと思って断っていたのよね。確かにこれは分かりにくいわ。

「ツヴェル王子、お待たせ」
「ベル。いえ、そのお姿のときはスカーレットとお呼びするべきですか?」
「そうしてもらえると助かるわ」
「ではスカーレット。お隣の彼は?」

 張り付けたような笑顔でツヴェルはノヴァの方を見た。
 そうか。ツヴェルはこの姿のノヴァを見てないのね。レベッカもオレンジの光のようなものが見えたとかなんとか言ってたし、あのパーティーにいた人たちはノヴァのこと認識できていないんだ。

「彼はノヴァですよ。私の番犬です」
「番犬? そのオレンジ色の髪……もしかして、あのとき君の部屋にいた?」
「ええ。今はこの姿でいてもらってます。ちょっとご機嫌斜めなので気を付けてくださいね」
「あ、ああ……えっと、よろしく、ノヴァ、くん?」
「……ノヴァで、いい」

 ツヴェルが差し出した手を掴んで握手した。良かった、ツヴェルのことも気に入ってるみたいね。

「では中に入りましょう。店主には話を通してありますから」
「ええ」

 ツヴェルに促されて店内に入る。
 店の中は壁を埋め尽くすほどの本の山。本棚に入りきらなかった古い本が至る所に散乱している。これはお店として成り立っているのかしら。

「……いらっしゃい」

 奥から顔を出したのはフードで顔を隠した男性だった。声の感じからして若そうだけど、ここの店員だろうか。
 なんていうか、ちょっと話しにくい雰囲気ね。

「こ、こんにちわ。私、ツヴェル王子の友人でスカーレットと申します」
「……どうも。珍しい人が来たものですね」
「……と、言いますと?」
「この店内は僕のテリトリー。偽りは通用しません」

 あれ。そのフレーズ、聞いたことあるんですけど。
 噓でしょ。これはさすがに予想外よ。だってゲーム内で二人が一緒にいるところなんて見たことなかったもの。まさか知り合いだなんて思わないし、そもそも導師を紹介するって言ってたのに。

「…………ツヴェル王子、随分と性格悪いことするわね」
「申し訳ありません。彼にそう言うように言われていたんです」
「…………はぁ。まさかこんなところでお会いするとは思っていませんでした」

 魔法特性、真実《リアル》。どんな幻や幻術も彼には通用しない。それは変装でも、言葉の嘘でも、何でもそう。
 その力の持ち主、このヴィンエッジ国の第一王子、ナイトアウル・ヴィンエッジ。まさか私の方が先に攻略対象の王子様に出会ってしまうなんて思わなかった。
 偽りの物を見抜く力のナイトと、どんな音も聞き取れるツヴェル。この二人の前ではどんな言い訳も無意味だ。

「お初にお目にかかります。私はハドレー国の第一王女、ヴァネッサベルです。名を偽った無礼をお許しください」
「別にいい。ツヴェルの紹介だし、この店で会いたいって言われたときから何かあるだろうとは思ってた」
「このお店は、ナイト王子の?」
「店なんて形だけ。実際は僕の書斎だよ。城の書斎に置ききれなくなって、ここを使ってるだけ。それに一人になりたいときにも使えるし」

 ゲームやってるときも思ってたけど、ナイトはちょっと性格が掴み切れないな。
 でもどうしよう。彼とシャルをくっつけることって出来るかしら。どうにかして接点を持たせたいけど、難しいかな。難しいかも。

「……えっと、それで本題なんですけど」
「それよりも僕は後ろの彼の方が気になる。君は本来の姿じゃないだろう? 見たことない、獣か?」
「ノヴァのことも分かるんですか?」

 ナイトはノヴァに近付き、顔をまじまじと見てる。
 ノヴァは観察するように見られることが嫌なのか、物凄く顔をしかめてる。

「……ベル、コイツ、食っていい?」
「駄目よ。あの、ナイト王子……ノヴァが困っているので……」
「ああ、すまない。それで、彼は何者なんだい?」

 これはちゃんと言わないと話が先に進みそうにないわね。仕方ないか。

「彼は聖獣です。本来の名をノヴァーリス。幼い頃に森で出逢って、それから共に行動しているのです」
「聖獣!? 実在していたのか……確かにこのオレンジの毛並み、本で見たことがある……凄いな、生きてるうちに出会えるとは……」

 ナイト王子はまたしてもノヴァをジロジロ見始めた。
 マズい。このままじゃノヴァの機嫌が悪くなる。さっさと本題に入らないと。

「お、王子! 私達、大事な話が合ってきたのですが!」
「え、ああ……そうだった……じゃあ、こっち来て」

 ナイトは名残惜しそうにノヴァから離れ、店の奥へと入っていった。
 なんか、まだ何の話もしてないのに疲れてきちゃった。

「……変わった王子様ね」
「そうですね。僕も幼い頃からの付き合いですが、たまに予想外の行動をとるので困ってます」

 クールキャラだと思ってたけど、ただの変わり者みたいね。
 シャルに彼を攻略できるかしら。


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