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第62話
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「お姉様! ご無事で何よりですわ!」
翌朝。レベッカの屋敷を訪ねると、玄関先で勢いよくタックルされてしまった。手紙で簡単にしか報告してなかったから心配してたんだろう。
今日は私が去った後のシャルの様子をキアノから聞いておいてと昨日手紙でレベッカに頼んでおいたので、それを聞きに来たのだが暫くは話が出来なさそうだ。
「すみません、お姉様。キアノ王子からまたシャルロット様が襲われたと聞いて……」
「う、うん。今回はノヴァのおかげで何とかなったわ。それで、キアノ王子から話は聞いてる?」
「は、はい。あまり詳しいことは守秘義務があるので教えてもらえませんでしたが……まずシャル様は怪我もなく無事だそうです」
「うん」
「それと……多分ノヴァのことだと思うのですが、謎の生き物が黒い塊を消したという噂がハドレー国で広がっているそうです」
「あちゃー……やっぱりそうか……さすがに私の魔法でもあれを隠すことは出来なかったのよね……」
「あと、仮面の男が目撃されたというのも……」
「私もかぁ……」
本当に変装していて良かったと心の底から思うわ。
それにしても、私の存在が大きく知られてしまったのはちょっとマズいわね。仮面の男を探そうとする人が出てきてしまうかもしれない。そうなると面倒だわ。
「キアノ王子が仮面の男は姫様を狙ってるのではないかって言ってましたよ」
「狙う!?」
「はい。騒ぎに乗じて、警備が手薄になったところで姫を攫おうとしている可能性もあると……今のところは失敗してるだけかもしれないって」
「やーだぁー……私は純粋な気持ちで妹を守ってるだけなのにー」
「私もフォローしたかったのですが、変に口を出しても話がこじれるかと思いまして……」
「うん……それは大丈夫。レベッカはそのまま知らないフリしてていいわ……」
まぁ私が騒ぎを起こしてると思われなかっただけいいか。そんな冤罪かけられたら堪ったものじゃないわ。
でも、もしこれで姫がその仮面の男のことが気になってるなんてことがどこからか漏れて噂にでもなったら最悪だわ。両親だって黙ってないでしょうし、私の平穏な暮らしにも影響が出る。
ああ恐ろしい。それだけは避けないと。
「そうそう。キアノ王子が警備をさらに強化させるために魔法の国に協力を仰ぐそうですよ」
「え、本当?」
「はい。武力だけでは限界があるので、魔法の力をもっと強めないといけないって」
「そう。じゃあヴィンエッジ国から誰か来るの?」
「多分そうなるとは思いますけど……さすがにどなたがハドレー国へいらっしゃるのかまでは……」
そうよね。実際に向こうの国へ要請してからじゃないと分からないわね。
それにしても、考えは違えど目的は同じということか。もしかしたらシャルは攻略対象となる王子様とは必ず一度は会うようになってるのかしら。
まだナイトがハドレー国に来るとは限らないけど、可能性は高そうね。
「私はツヴェル王子から連絡が来たら魔法の国へ行くわ。レベッカはどうする?」
「私は、今回はお待ちしています。その方がノヴァも早く走れますでしょう?」
「そうね。ありがとう、レベッカ」
「いえ。ですが、どうか無理はなさらないでくださいね」
「ええ。分かってる。それに、私の仮説が正しければ暫く向こうは動かないと思うの」
「どういうことですか?」
今までの傾向からして、連日続けて攻撃してくることはなかった。
大きな攻撃の後は動かない。あれだけ大出力の魔法を使っているんだから当然だ。
ツヴェルだって言っていた。精神力を削ってるかもしれないと。どんなに強大な魔力を持っていても、限界はある。
多分だけど、相手は一人で動いてるんだ。最初は暗殺者を雇ったりレベッカを唆したりしてたけど、私が邪魔に入ったことで警戒してるんだと思う。
共に行動する仲間はいない。だから攻撃も一度の大きな大出量の魔力を消費した後の追攻撃がない。
「ある意味、私がリカリット国に行ったのは良い牽制になっていたのかも」
「それは、向こうがツヴェル王子に接触できなくなった……ということですか?」
「多分ね。向こうが何したいのか分からないから、あくまで想像の範疇を出ないけど……」
でもその仮説が正しければ、次の攻撃まで時間がかかるはず。その間に魔法のことをもっと知ることが出来れば、敵を捕まえるための対策を取れるかもしれない。
ただ、そこまでしてシャルを殺せたとしても共倒れになったら意味がないのではないか。相打ちになってでも殺したいというの?
気にはなるけど、相手の動機なんか気にしてる場合じゃないわね。
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