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第53話
しおりを挟むコンコン。
ドアがノックされ、レベッカが首を傾げながら恐る恐るドアスコープを覗いた。時間も遅い。あんな騒ぎがあった後だ。私はノヴァの背に手を置いて、ドアの向こうを警戒した。
「えっ!?」
レベッカが驚いた声を上げてドアを開いた。
一体誰が来たのだろう。そう思いながらドアの向こうに視線を向けると、そこにはローブを着たツヴェルがいた。
「あら。こんな時間に女の子の部屋を訪ねるなんて非常識ですよ、ツヴェル王子」
「夜分遅くにすまない。レベッカ嬢から君が部屋に戻ってることは聞いたが、心配でね。しかし、頼もしい番犬がいるようで安心したよ」
ツヴェルはノヴァを見て少し驚いたようだけど、その体の大きさと気配から彼の強さを察したみたい。さすがに聖獣であることには気付いていないみたいだけど。言ったらもっと驚くでしょうね。
「中に入って。誰かに見られても面倒だし」
「では、お邪魔します。ああ、差し入れのコーヒーを持ってきたよ」
「あらあら! さすが王子様、気が利くわね!」
ツヴェルが部屋に入り、テーブルに三人分のコーヒーを置いた。夜は冷えるのでホットを用意してくれたみたい。良い香りが部屋の中に広がっていく。疲れた体に沁み込んでいくわ。
「レベッカから聞いたと思うけど、君の血は綺麗に消しておいたよ」
「ありがとう。助かるわ」
「こっちでも襲撃犯を追って周囲を探しているけど、どこから撃っていたのかも分からない状態でね……」
「あれだけ派手な攻撃をされたというのに、魔力の痕跡も残っていないのですか?」
「ああ。綺麗さっぱり。魔法が放たれた方角を探しても何もない。恐ろしいものだよ」
「…………相手の魔法特性、なのかしら。隠蔽能力に長けているとか」
相手は好きな時にこっちを狙えるのに、こっちは向こうの動きが全く分からない。いつまで経っても不利なまま。
ああ、じれったい。腹が立つ。さっさと決着をつけたいのに。
「正直な話、相手の狙いがいまいち分からないんだが」
「どういう意味かしら」
「シャルロット姫だけが目的なら、もっと効率のいい方法があるはずだ。しかし、相手のやり方はどうにも派手というか、非効率だ」
「言われてみれば、そうかもしれないわね」
現にレベッカはシャルのみを狙って、馬を魔法で狙撃した。
でもパーティーを狙うのは何で。兵士も多く、失敗する確率の方が高い。考えてみればそうよね。落石で狙ったのはいかにもって感じだけど。多分あれはレベッカと同じで魔術師の指示ではなく、奴が雇った暗殺者の判断で行ったことだと思う。だってあそこには犯人の痕跡が残っていた。魔術師がいたなら、そういったものは消しているはず。
それ以外は、今のところパーティーを狙った襲撃のみ。目立った動きも特にない。というか、魔術師本人は表に出てきていない。奴がいたらノヴァが気付いているはずなんだから。
「ううーん。何がしたいのか……目的がシャルであることに変わりはないんだろうけど……」
「何か目的があって大勢のいる場所での襲撃にこだわっているとかでしょうか?」
「全員にシャルロット姫の死に際を見せようとしているとか? それは随分と悪趣味だな」
「全員に、死に際を……」
それって、まるでゲームでのベルの最後と似ているわね。
ベルはシャルの命を狙った罪で処刑される。大勢の前で。ゲーム内ではその辺の描写はふわっとさせていたけど、最後のモノローグから考察してそれは間違いない。
黒幕は、その最後をなぞろうとしているの?
やっぱりバッドエンドへ物語を修正しようとしているのかしら。トラウマ級の最後を演出するために、動いている。
そう考えるのが、妥当だろう。
胸糞悪いわね。まぁ、ヴァネッサベルの代わりになる悪役なんだから、それくらいは当然なのかしら。
でも、そう考えれば動きが読めるかもしれない。ベルがやりそうなこと。ゲーム内でのイベントの傾向。全てのルートを思い出して、相手の動きを読むんだ。
ただ、私は過去の、いえ前世の記憶を所々忘れている。先読みはかなり難しい。
「それでも……負けられない」
ハッピーエンドのために。
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