50 / 108
第50話
しおりを挟む真っ先にシャルの方へと向いた。
ああ、最悪だわ。さっきの破裂音は以前と同じ魔法の弾丸による襲撃。的確にあの子の周囲にいた兵士達を動けないように足を撃っている。
優しいシャルは近くの兵士達を治そうとその場にしゃがみこんでしまっている。きっとこれも犯人の狙いなんだ。
キアノはレベッカに付いているし、ツヴェルは他の客を避難させるのに忙しい。
「……っ」
私はボロボロになったテーブルクロスを引っ張ってローブ代わりに体に巻き、極限まで気配を消してシャルの元へ駆け寄った。
早くあの子を逃がさないと、このままじゃ格好の的じゃない。
割れた窓の向こうから次の攻撃が来ているのが見える。
「きゃあ!」
私はシャルの後ろからもう一枚持ってきていたクロスを頭から被せて、抱き上げた。
これで向こうからも姿は見えないし、私のこともシャルには見えない。我ながらナイス判断だわ。
「だ、誰だ! シャルロット姫を離せ!」
まぁ兵士からすれば怪しい人ね。でも動けない貴方達より確実に守れる私が動かないといけない。
私は死角になりそうな柱の向こうに隠れようと走り出した。
「危ない!」
レベッカの声が聞こえてきた瞬間、私の右足に衝撃が走った。
撃たれた。頭の中で冷静にそう判断する私がいる。
見るな。いま足を見たら、一気に痛みが襲う。無心になれ。私は走れる。
シャルをきつく抱きしめたまま、安全な場所まで走った。
「……っぐ」
ヤバい。倒れそう。
当たり前だけど根性論だけでどうにかなるような痛みじゃなかった。
どうにか柱の陰になる場所に来れたところで足がもつれてしまった。
膝を付いたことで地面に倒れずには済んだけど、立ち上がることが出来ない。
「あ、あの……」
シャルがクロスの中で動いてる。
このままじゃ顔を出して、私のことを見てしまう。
私も早くこの場から去らないと。
早く。早く。早く。
「…………あら?」
シャルの気の抜けた声が遠くに聞こえる。
何が起きたの。何故か今、私の体は浮いている。
シャルが頭に被ったクロスから顔を出す直前に、何かに引っ張られるような感覚はあった。
そして今、何者かが私のことを抱き上げて宙に浮いてる。というより、跳んでる。あの場から垂直に飛び上がったんだ。
「…………貴方」
月明かりの下でキラキラと輝くオレンジ色の髪に鋭い眼光。初めて見る人なのに、物凄く知っている。
だって、ずっと一緒にいたもの。
「ノヴァ?」
「…………馬鹿」
「は!?」
多分ノヴァだと思われる男性は、王宮の屋根の上に降り、深い溜息を吐いた。
「無茶、駄目だって、レベッカ言った」
「そ、それはそうだけど、あの場合は仕方ないでしょ! 私が動かなかったらシャルが撃たれていたのよ!」
「それでベル、死んだら意味ない。だから、馬鹿」
「ば、馬鹿って何度も言わないでよ!」
「馬鹿。いっぱい馬鹿」
「だから……っていうか貴方、本当にノヴァなのね? 人の姿になるの嫌じゃなかったの!?」
ノヴァは私を下ろし、ドレスのスカートを捲って怪我した右足を撫でた。
うわ、グロ。血だらけの足を見て、私は倒れそうになった。それに痛い。メチャクチャ痛い。
そんな私の足を、ノヴァが舐めた。血を拭き取るように、そっと丹念に。
「元の姿、人に見られる、よくない。だから、特別」
「そ、そう。ありがとう……それと、ごめんなさい」
「…………レベッカ、泣いてた。謝る、そっち」
「そうね……」
ノヴァの舌が傷口を舐める。私の血から魔力を得ているのか、オレンジ色の髪が淡く光り輝いている。
綺麗だなと見惚れていると、足の痛みが段々と引いていくのに気付いた。
「……ノヴァ、癒しの魔法が使えるの?」
「簡単な治癒。傷、塞いだだけ。血は、戻せない。ベル、安静」
「は、はい」
「宿、帰る」
「う、うん。ああ、でもレベッカいないけど勝手に入っていいのかしら」
「窓、開けっぱ」
「仕方ない。離れだし、この騒ぎなら気付かれないわよね」
レベッカやツヴェルに無事を知らせたいけど、今はそんな余裕もないわよね。
「ノヴァ、こっそりレベッカに連絡取れる?」
「俺、こっそりできる、見える?」
「見えないわね。どっちの姿も目立つもの」
しょうがない。ホテルの部屋からフロントに連絡して、レベッカに私が部屋で待ってることを伝えてもらおう。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
暁にもう一度
伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。
ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。
ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。
けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。
『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる