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第41話

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 翌日の朝。私は予定通り、レベッカの屋敷を訪れた。
 前もって伝えてあるおかげで、玄関先でメイドが私の顔を見ただけでどうぞと中へ通してくれた。
 やっぱり連絡手段があると楽ね。

「お姉様!」
「ごきげんよう、レベッカ。キアノ王子とは順調そうね?」

 そう言うと、レベッカは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
 ああ可愛いこと。

 でも今日はそういう話をしに来たんじゃないの。今度に関わる重要な話よ。
 事前に中庭のテラスに用意してくれたお茶を飲みながら、私は話し始める前に魔法で人目を寄せ付けないようにする。

「お姉様。リカリット国に行かれたんですよね。砂漠の中を移動するのは大変でしたでしょう?」
「まぁ実際に走ってくれてるのはノヴァだからね。私はあの子にしがみついてるだけだもの。そうそう、あの子ったら貴女の焼いたお菓子を気に入ってるみたいよ」
「本当ですか? またお菓子焼いてあげますね」

 レベッカはふわりと優しい笑顔を浮かべた。
 そうしてくれるとノヴァも喜ぶわ。

「それで、本題なんだけど……今、ハドレー国にリカリット国の王子、ロッシュ様が来ているのよ」
「そうなのですね。あ、それでお姉様はリカリットに?」
「ええ、もしかしたら例の魔術師がリカリットの王子を利用しようとするかもしれないと思ってね。とりあえず魔術師の気配はなかったわ」
「そうですか。我が家にも来ておりませんわ。あまりお父様にもしつこく聞けないので、こちらから足取りを掴むことは出来そうにないです」
「それでいいわ。貴女はいつも通りでいい。怪しまれる行動をとって、貴女が狙われても嫌だもの」
「お姉様……」
「で、昨日シャルの様子を見に行ったときにロッシュの王子が貴女とキアノをパーティーに招待すると言っていたの。いつ開催されるのかは分からないけど、もし招待されたら私……いえスカーレットを友人として連れて行ってほしいの。あくまで形だけでいいわ」
「それだけで、いいんですの?」

 レベッカが首を傾げた。
 いくらリカリットのパーティがお祭りのようなものであっても、一応招待がないと王宮のダンスパーティーには参加は出来ない。同時開催される街のお祭りは誰でも自由だけどね。
 ツヴェル王子に近付くには王宮に入り込みたい。あとは魔法で極力存在感を消しておけば誰かに怪しまれることもないはず。ツヴェルを見つけたら、それとなく近付いて気付いてもらうようにする。
 そのプランを説明すると、レベッカはちょっとだけムッとした顔になった。

「お姉様……ツヴェル王子に気があるのですか?」
「え?」
「だって近付くって……」
「あ、ああ! 違う違う! そうじゃないの。あくまで彼の力を借りたいだけよ。それに、彼にはもう一度会っているのよ。その時に、魔術師の話をそれとなくしているの。だから私と別れた後に魔術師や怪しい者が来てないか聞いておきたいじゃない?」
「なんだ、そういうことでしたの。ツヴェル王子はロッシュ王子と違ってとても誠実でお優しい方と聞いてますが……お姉様のお相手に相応しいかどうかしっかり見定めておきたいと思いまして……」
「いらないいらない。なんで貴女もノヴァもそういう風に考えるのかしら。私、恋愛とか興味ないのよ?」
「でも、お姉様はとてもお綺麗ですし。きっと家出をされずにいたら各国から縁談の話が尽きなかったことでしょうね」

 どうなのかしらね。ゲームでのベルは悪いところしか描かれていないから分からないけど、確かに見た目だけなら超絶美人だし、そうであってもおかしくないわ。
 きっとシャルも、今頃はそういう話で持ちきりだろうし。ただ今のあの子は王位継承のための勉強に忙しいからそれどころでもないんだろうけど。

 結婚ね。前世の頃も彼氏に振られてからはそういうの諦めてたし、元々結婚願望もなかったから、なんていうか他人事でしかないのよね。


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