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第39話
しおりを挟むちょっと待って。そんな顔を赤らめて可愛い顔して言わないでよ。うっかり会いに行っちゃうところだったじゃない。
いやいや、駄目だって。顔も名前も知らない人が気になるなんて一国お姫様が言っちゃ駄目なのよ。キアノもロッシュも驚いちゃってるじゃない。
せっかくロッシュが良い感じにフラグを立てようとしてくれてたのよ。シャルは俺様なロッシュのことを何この強引な人って思いながらも内心では彼のことが気になっちゃうみたいな定番の少女漫画展開を見せてほしいのよ。
なんでそんなに怪しい人物のことを気にしちゃってんの。ピンチを救っちゃったから?
あれか。吊り橋効果みたいなものですか。
「シャ、シャルロット様……その男とは一体?」
「いつも私のピンチに表れて、命を救ってくださったのです。お礼もまだちゃんと出来ていなくて……」
「あ、ああ。気になるってそういう感じ? 単純に名前が分からないから知りたいだけ? な、なんだ。焦って損したー」
「あの方のことを思いと、夜も眠れなくて……」
「おーいおいおい。このお姫様、俺の話聞いてんのか?」
どうしよう。どうすればフラグを折れるのかしら。わざと嫌われる態度を取る?
でもどうやって。嫌われるためだけに会いに行って正体バレたら意味がない。迂闊な行動はとれないわ。
これでベルは実は生きてましたって出ていってあの子に嫌がらせして他の王子様とのフラグを立てる?
いや、それじゃあ駄目よ。家出した意味がなくなる。そんなことしてシャルが死んじゃったらどうするの。私が返り討ちに会って死んだらどうするの。
ここは王子様に頑張ってシャルを攻略してもらうしかないわ。レベッカに手伝ってもらおうかしら。年の近い女の子同士で恋愛トークとかして、そんな怪しい人よりもカッコいい王子様にしなって促してもらうの。だって、その怪しい男の正体は実の姉なのよ。そんな奴を想ってても時間の無駄なの。叶わぬ恋なの。
これは貴女のためでもあるのよ、シャル。
「キアノ王子。先日の馬が急に暴れた時のこと、覚えていますでしょうか」
「ええ。馬の足が怪我していたと姫が仰っていた……」
「はい。あの時、私を助けてくださった方がいるのです。誕生日パーティーで謎の襲撃があった時も、馬車に落石が落ちてきたときも……仮面のお方が助けてくださいました」
「……しかし、あの時は貴女以外の気配を感じませんでしたよ?」
「ええ。他の兵士の方にもそう言われ、私はあまり口にすることはなかったのですが……」
「何それー。気配を消せる力を持ってるとかそういうの? それくらいの力なら探せばいくらでも出てきそうだけどなぁ」
「そうだな……相当なレアスキルでもない限り、探すのは困難だ。それより、我々は貴女の命を脅かしている者の正体を突き止めることの方が重要です」
「そう、ですよね……それに関しては私も最優先でお願いしてます。来年の王位継承式に何か問題があっては、民達を怖がらせてしまいます……」
ああ、良かった。話がズレそうで。このまま私のことを全力で探されたら困るもの。
それにラスボスの正体を城でも探してくれてるなら有難い。私一人じゃ限界もある。ただ、そいつとレベッカが関わったってことをキアノにバレなきゃいいけど。
まぁシャルも怪我しなくて済んだし、今はもう反省してる。だから万が一魔術師のことを知られたとしてもレベッカが責められるようなことはない、と思いたい。実際は王族を危険にさらした罪に問われるけど、シャルもキアノも大事にしないだろうし。
「最近はキアノ王子や兵士の皆さまが守ってくださっているおかげで危険な目にも遭っておりませんし、とても感謝しております」
「……その仮面の者に会うために変な行動を取ったりはしないでくださいね?」
「そ、そんなことはしません! ……ちょっと考えはしましたけど……」
「考えるんじゃねーよ。こえーな、この姫様は」
本当よ。一ミリも考えちゃ駄目よ、そんなこと。
我が妹ながら恐ろしい子だわ。何だかんだ、ベルと双子の姉妹だものね。あの子にちょっと危険な思想があっても正直驚きはしないわ。
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