38 / 108
第38話
しおりを挟むいつものように朝早く起きて、畑の管理をして、レベッカに戻ってきたことを伝えるために鳩を飛ばす。
うん、朝やることはこれで終わり。
一人だと家事もサクッと終わるからいいわね。一人暮らし最高だわ。
「がうー」
「おはよう、ノヴァ。パン焼いてあるわよ」
「がう!」
さすがに昨日のお礼があんなキスまがいのものだけってのは申し訳ないし、今日はいつもより多めに焼いてあげたわ。
「それ食べたら、ハドレーまでお願いね」
「がうがう」
「また覗きかって言わないの」
覗きじゃないわ。私なりの警護よ。
―――
――
食事を終えて、数時間かけて今日もハドレー城に忍び込んでいます。
良かった。裏庭から見えるところに客間があって。
客間は一階にあるから、いつものように木の上からじゃなくて植木の陰から部屋の様子を覗く形になる。これもまた怪しいわね。見つかったら問答無用で捕まるわ。
窓も開いてるおかげで今日は声も聞こえる。
シャルの鈴の音のような可愛らしい声がここまで届くわ。
「おはようございます、ロッシュ様。ゆっくりお休みになられましたか?」
「よう。シャルロット姫。酒があればもっとよく寝れたんだけどな」
「申し訳ありません。昨晩のワインだけでは足りませんでしたか?」
「俺はいつもワインなら二、三本は開けてから寝てるんだ。その辺、気を利かせて欲しかったな」
我儘だわ。出逢った当初のロッシュは本当に自分勝手。お兄さんとはえらい違いよね。
まぁ、そういう出来の良い兄と比べられ続けて、ああなっちゃったんだけどさ。
「……ロッシュ王子、もう少し言葉を慎んでください。ここは貴方の国ではないのですよ」
「あ?」
口を挟んできたキアノに、ロッシュが反応した。やっぱり二人は真逆ね。性格的に合わなそうだと思ってたけど、早速喧嘩しちゃうのかしら。
無駄に高身長の二人に挟まれて、シャルが可哀想。でもアワアワしてるところも可愛いわ。
「何だよ、お前。王子のくせに他国の姫の護衛なんかしてる奴が、俺に偉そうな態度とるんじゃねーよ」
「偉そうにはしていない。私は当然のことを言ってる迄だ。他国の姫君に乱暴な言葉遣いと無礼な態度を取るな。貴殿の国の品位を落とすだけだぞ」
「はっ! 本当にてめぇは頭が硬いな! そんなんじゃ一生嫁なんか貰えないだろ」
「ご心配なく。俺にはもう心に決めた婚約者がいる」
お。これは良い発言を頂きました。
キアノはもう確定でレベッカとくっつく。ああ良かった。キアノの口からその言葉が聞けて。なんか安心したわ。
「はぁ!? お前なんかに惚れる女がいるのかよ。お前と同じでつまんねー女なんだろ」
「っ、貴様!」
それは言い過ぎだわ。間に入ってロッシュをぶん殴ってやりたい。
その気持ちをグッと堪えて歯を食いしばっていると、シャルがそっとロッシュの口元に手を添えていた。
「それ以上はいけませんよ、ロッシュ様」
「っ……シャルロット姫……」
「キアノ様の大切な方を、全く知らない貴方が勝手な決めつけで貶すものではありません。ロッシュ様はレベッカ様をご存知ではないでしょう?」
「……それは」
「私も直接お会いしたことがありません。なので勝手なことは言えません。それでも、レベッカ様を想うキアノ様のお顔を見れば、彼がどれほどレベッカ様をお慕いしてるのか分かります。そんな大切な人を侮辱されて怒る彼の気持ち、分からない貴方ではないでしょう?」
シャルがロッシュの両手を包み込むように手を握った。
柔らかな微笑みを向けるシャルに、ロッシュも申し訳なさそうな表情を浮かべてる。
これはフラグが立ちそうね。順調にロッシュルートへ向かってるわ。その調子その調子。
あとは魔術師をどうにかして捕まえれば、一件落着なのよ。
どうせなら他の王子様にも会いたかったけど、ここで丸く収まってくれた方がいい。
「悪かったな……キアノ王子」
「いえ。こちらも汚い言葉遣いをして申し訳ない」
「今度、うちでやるパーティーに二人とも招待してやるよ。んで、俺に紹介しろ」
「別に構わないが……レベッカに手を出すなよ」
「人様のものに手を出す気はねぇよ。それよりも、俺はこっちの方が興味深い」
「きゃっ!」
ロッシュがシャルの手を引いて、胸に抱きしめた。
俺様気質はそう簡単に変わらないわね。でも、経験豊富なロッシュにしっかり引っ張ってもらって、暴走しちゃう時はシャルが手綱を握ってあげればいい。
うん。良いバランスじゃない。
「おい、ロッシュ王子。シャル様に失礼だぞ」
「何だよ、彼女持ちには関係ないだろ」
「え、あ、あの……ロッシュ様……」
「なぁ、シャル。俺はお前に興味がある。覚悟しておけよ」
「あ、あの……」
シャルがモジモジしてる。カッコイイ王子様に迫られて、恥ずかしいのかしら。
微笑ましいわね。でも今のうちに慣れておきなさい。これからも続くんだから。
「わ、私……実は心に決めた方がもういるんです……」
「は?」
「え?」
「名前もご存知ないのですが……ずっと気になっていて……」
ヤバい。私へのフラグ、まだ折れてない。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
暁にもう一度
伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。
ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。
ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。
けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。
『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる