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第34話
しおりを挟む翌朝。チェックアウトを済ませ、私は街の中をうろついていた。
王宮に忍び込むつもりはない。今回の目的はあくまで魔術師の動きを探ることだけ。ノヴァにはまた外を調べてもらっている。
王宮に知り合いでもいれば色々と情報も集めやすいけど目立つこともしたくないし、ここは地道に行くしかないのよね。
ロッシュはもうハドレーに行ってるわよね。遠いから朝早くから出発してるだろうし、多分城に一泊するはず。そうなるとキアノは帰るのかしら。それとも彼も護衛として付き添うのかしら。居てくれた方が安心できるんだけどね。
でもそうなるとシャロとロッシュの距離を縮められないかな。キアノは堅物だから不用意に近づくなとか行っちゃうかも。護衛という役目をさせているけど、彼も王子だし立場は同じだもんね。
それにしても、この国は朝から賑わっているのね。商店街のような出店の通りがもうやっている。あちこちから色んな匂いがしてるし、広場では楽団が優しいメロディーを奏でてる。
ゲーム内のランキングでも一度遊びに行きたい国一位になっていたっけ。実際に来てみると、その順位にも頷けるわ。
ここの王族は街にもよく遊びに行く。だからもし王宮に誰か来てればちょっとした噂にもなるかもしれない。
歩きながら人々の話に耳を傾けておきましょう。
「お姉さん、ここじゃ見ない顔だね」
「はい?」
「こんにちわ」
おっと。何ということでしょう。まさかツヴェル本人とここで出会うなんて思ってませんでしたよ。
いや、待って。そういえば、ファンブックに書いてあった。ツヴェルは毎朝必ず街を歩いて民達と話をするって。そしてこの広場にあるカフェは彼の行きつけの店。この国は唯一コーヒーを売っているの。
なんで私は大事な情報をいつも忘れてるの。やっぱり転生して赤ん坊からやり直してるせいで記憶が掠れてしまってるのかしら。そしてこういう時にポンと思い出すの。
でも今の私はただの旅人よ。落ち着きなさい。ボロを出さないように気を付けるのよ。
「え、ええ。旅をしながら色んな国を見て回っておりますの。貴方は、確かツヴェル王子殿下でしたわね?」
「ご存じでしたか。改めまして、ツヴェル・ゲンフェー・リカリットと申します。どうぞツヴェルとお呼びください」
「私は、スカーレットです。王子様にお声掛けいただいて光栄ですわ。実は昨晩この国に来たばかりでしたの」
「そうでしたか。もし宜しければ私が街を案内致しますよ」
「そ、そんな。王子様にもご都合がありますでしょう? 私もすぐに次の国に立ちますし」
「そう、でしたか。お急ぎであれば仕方ありませんね……」
ああ、王子がしゅんとしちゃった。
くっ。こういうところが人気なのよね。弟のロッシュは完全に俺様タイプのライオンみたいな人だけど、ツヴェルはどちらかといえば大型犬みたいで、攻略対象でないのに人気もロッシュと並ぶほど。
分かるわ。これは、放っておけない。普段は穏やかで可愛らしいのに、戦うとカッコよくなるのよ。イベント限定で彼のシナリオが作られるほど人気あったもんね。
「あ、あの……王子様さえよかったら……案内してくださいますか?」
「え、でも」
「せっかくの王子様のご厚意を無下には出来ませんわ。それにリカリットのことも知りたいですし」
「本当ですか! では、案内しますね!」
なんて眩しい笑顔なのかしら。二部では彼もメインキャラとして組み込まれててもおかしくないわ。
ゴメンね、ノヴァ。お外でもう少し待ってって。もしかしたらツヴェルを誘惑するってミッションをクリアできるかもしれないでしょ。
ここでツヴェルとの好感度をある程度上げておけば、シャルとフラグを立てずに済むかもしれないもんね。
私、頑張る。
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