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第29話

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「ねぇノヴァ、本当に人の姿になれるの? ねぇ、今出来る?」
「がう」
「え、なんで駄目なの!?」
「がうがう」
「なんか嫌だ? 何よそれ、てゆうかなんで言ってくれなかったの!」
「がう、がうがう」
「確かにそこまで重要なことでもないし、人の姿になれなくて困ったこともないけど……」

 興味本位で見たいって言ってるのが嫌みたいね。そう言われると私もこれ以上言えないじゃない。だって絶対に今必要なことでもないし、この先もそれが重要になる場面も多分ないし。獣の姿の方が都合良いし。

「分かったわよ。強制はしないわ」
「がう」
「わかったわかった。今パン焼くから」

 私は今朝作ったパンの生地を冷蔵庫から取り出して窯に入れた。
 ちょっと興味あったんだけどな。ノヴァは聖獣だし、とてもイケメンになると思ったんだけど。
 もしかしてノヴァって恋100のメインストーリーの二部から追加される新キャラだったりするのかしら。ワンチャンあり得なくもないわね。だとすれば、本来はベルとは出逢わなかった子なのね。だって一部でのラスボス的存在がベルで、ハッピーエンドルートでは死んでいるんだから。二部はハッピーエンド後のお話になるわけだし、ベルは登場しないもの。
 じゃあ、私が家出しなかったらノヴァと出逢うことはなかったってことか。家出もしてみるものね。

「ノヴァはシャルのことどう思う?」
「がう?」
「何となくよ。深い意味はないのよ」

 もしノヴァが二部で追加されるキャラだったら、シャルと恋をするルートだってあるはず。
 おそらく二部の始まりは、なんやかんやでベルを処罰して正式に次期王となるシャルのお話だと思う。で、そこから分岐が入ってそれぞれの王子様ルートに進んでいくはず。
 その分岐の中に、新キャラとのルートが追加されるんじゃないかしら。あくまで私の予想だけどね。もう確かめようもないし。

「がうがう、がう」
「そうね。ノヴァはそこまでシャルと接点ないものね。分かるわけないか」
「がう」
「え。私のことは嫌いじゃない? ふふ、ありがとう。私はノヴァのこと好きよ。だって初めてのお友達ですもの」
「がうがう」

 数十分経って、焼き立てのパンをカゴに入れてノヴァの前に置いてあげた。
 美味しそうに食べてくれるノヴァの頭を撫でる。

「そういえば、今日は私に誰かの魔力が付いてたりする?」
「がうう」
「何もないのね。これでまた夢を見たら、誰かがこの山へ向かって魔法を放ってることになる」

 もしかしたら外で微弱な魔力を体に付けられていたのかもしれない。だから今なにもない状態で夢を見たら、予想は確信になる。
 それが分かったところで犯人への手掛かりにはならないんだけどね。聖獣であるノヴァに気付かれないほど高度な魔法で私に夢を見せるとか、手の打ちようもないわ。
 それでも、一歩一歩進んでいくしかないのよ。

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