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第20話
しおりを挟む「出来ました!」
「うん。よく出来てるわね」
数時間後、綺麗にラッピングされたブラウニーが完成した。
部屋に広がるチョコレートの香りとほんのり漂う洋酒の匂い。昔食べたものにはお酒は入れてなかったみたいだけど、今回のは大人になった彼に渡すもの。お互いに大人なんだってことを意識させることも出来るわ。
「こちらはお姉様に」
「ありがとう、いただくわ」
多めに作っていたので、余った分をお皿に並べて差し出してくれた。
私は一切れ手に取って、口に運んだ。
「…………」
「ど、どうですか?」
「うん。とても美味しいわ。ナッツとチョコチップの感触が良いわ」
「本当ですか! キアノ様も喜んでくれるかしら」
「きっと気に入るわ。それじゃあ、次は私の番ね」
「え?」
レベッカの背後に回って肩を掴み、椅子に座らせた。
何が起こるのか分かっていないポカンと口を開けたまま目をパチパチさせている。
「あ、あの、お姉様?」
「これから貴女をもっと可愛くしてあげるわ」
私は持ってきていたメイク道具の入った鞄をテーブルに置いて、腕をまくった。
と言ってもメイクはそんなガッツリするつもりはないわ。軽くリップを塗る程度。普段メイクをしないんだから、それくらいの変化でいいの。
あとは髪型よ。メイク鞄の中にリボンやらヘアアレンジに使えそうなものを持ってきたの。これで堅物王子も普段と違う幼馴染の可愛さに気付いて意識し始めちゃうこと間違いなしよ。
「レベッカはいつも髪を下ろしているから、ゆるふわな三つ編みとかも可愛いわね。それともギブソンタック……ハーフアップもいいわね」
「え、え?」
「でも今回はお菓子を渡しに行くだけだから、サイドに緩めの三つ編みとかにしておきましょうか。それからリボンは何色が良いかしら」
「た、楽しそうですわね。お姉様」
「ええ。可愛い貴女をもっと可愛くしてあげられるんだもの、とても楽しいわ」
「……やっぱり、凄いですね。お姉様は」
「え?」
レベッカが少し俯いて指先で髪をくるくるさせた。
どうしたのかしら。私、何か変なこと言った?
「お姉様は自信に溢れてて、一つ一つの言葉や行動にこれが正しいんだというような、周りにもそう思わせてしまうような力があるなって……」
「も、もしかして……何か、不快だった?」
「い、いえ! 違うんです! そこに憧れるというか、お姉様に凄く引っ張ってもらえてるというか……お姉様のおかげで、私も頑張ろうって思うんです。昨日出逢ったばかりの、それも妹君の命を狙った私なんかのために、ここまでしてくださって……本当に、嬉しいんです」
「レベッカ……」
そんなことを考えていたのね。
確かにレベッカはシャルのことを狙ったけど、それはこの子だけの責任じゃないわ。そうなるように仕向けた者が悪いのよ。
レベッカからすれば私は知り合ったばかりの女だけど、私からすればずっとゲームで見てきた女の子。もっと違う未来があれば、ってずっと思っていたわ。ベルに出逢わなければきっと幸せに暮らせていたはずなのにって。
「私は、貴女の笑顔が好きよ。だから、そんな深く考えなくていいの。ただ、笑っていてくれれば十分よ」
「お姉様……ありがとうございます」
バッドエンドにさせない。
まずは、貴女をハッピーエンドへ向かわせる。
レベッカも、シャルも、死なせない。
誰一人も。
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