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第17話
しおりを挟む「とりあえず、今日はもう帰りなさい。近くまで送らせるわ」
「はい。ありがとうございます、お姉様」
「それと……貴女に近付いてきた魔術師っていうのは、よく来るの?」
「いえ。一度会ったきりです。今日のは、私の独断でしたので」
「そう……」
レベッカを焚きつけておいて、自分は動かないのね。どこかで観察してる可能性もある。さすがにこの場所は割れてないと思うけど、いきなり姿の消えたレベッカを不審に思うかもしれない。
「もしその魔術師が来ても、私のことを喋らないようね。今日どこにいたのって聞かれても、適当に誤魔化しなさい。そうね……ああ、私の正体はバレてないだろうから、怪しい仮面の男に追いかけられてたとでも言えばいいわ」
「でも、それではお姉様が……」
「平気よ。貴女がそういえば向こうは仮面の人物を男だと思い込んでくれるかもしれないし、仮面の男に注意を引きことが出来れば、こっちから引きずり出せるかもしれないわ」
「さすがお姉様。頼もしいですわ」
「とはいえ、向こうがどう動くは予想も出来ないし、これを預けておくわ」
私はレベッカに小さな笛を手渡した。
「これは?」
「ただの犬笛よ。でも魔力を込めて吹けば、ノヴァがすぐに貴女だと気づいて反応するわ。何かあったらそれを吹いて知らせて。駆けつけるから」
「はい、お姉様。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むレベッカの頭を撫でた。
考えてみれば、このゲームに出てくる女の子キャラって基本的に不憫よね。シャルもバットエンドでは姉に酷い仕打ちを受けた上に王子様と結ばれずに死んでしまうし。レベッカもベルに散々利用されて殺される。
全てはベルの行い次第なのよ。私は絶対に、誰も殺したくない。殺させたくもない。
「それじゃあ、行きましょうか」
「ええ」
外に出て、ノヴァを呼んだ。
特に不審な影もなかったらしく、暇だったとぼやいていた。
「そういえば、お姉様はこの聖獣の言葉がお分かりになるんですの?」
「ん? あー、何だろう。もう十年も一緒にいるからね。言葉というより雰囲気? それで察せるようになったのよ。ね、ノヴァ」
「がう!」
「今のは俺が分かりやすいように喋ってやってんだぞって偉そうに言ってるわ」
「今の一声だけで分かるのですか……凄いですわ」
「あとは目とか、表情かしら。目は口程に物を言うってことよ」
「私にも、分かるようになるかしら?」
「がうがう」
レベッカが恐る恐る手を伸ばすと、ノヴァはどうぞと頭を差し出した。
良かった。ノヴァもレベッカのことを気に入ったようで。
「……ふふ。ありがとう、ノヴァ様」
「がう」
「様はいらないって言ってるわ」
「じゃ、じゃあ……ノヴァ、これからもよろしくお願いしますわ」
「がう!」
美少女と聖獣。なかなか絵になるわね。
でもあまり遅くなるとレベッカのご両親も心配する。ノヴァの背に乗って、チェアドーラ国の近くまでレベッカを送り届けた。
「明日の正午にまた来るわ。それで貴女の知人としてお屋敷に入れてくださる?」
「え、でも……お姉様は姿を隠しているのでは?」
「ええ。だから変装してくるのよ。関所を通るから、兵に知人が来ると伝えておいて。その方がこっちも楽だから」
「分かりました。では他国の友人が遊びに来るからお通しするように言っておきますの」
「頼んだわよ。そうね……何か別の名前が必要よね……」
「偽名というものですわね……お姉様に似合いそうなお名前……そうだ、スカーレットはどうですか? お姉様の赤い目に似合うと思うのです」
「スカーレットね。悪くないわ」
それでは、また明日。そう言って帰っていくレベッカを見送り、関所を通っていくのを確認した後に私も山に戻った。
スカーレット、ね。そういえば別のゲームでスカーレットって悪女がいた気がするわ。
つくづく縁があるわね。
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