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第13話
しおりを挟む翌朝。私は冷たい水で顔を洗い、気を引き締めた。
こっちから派手に動くわけにもいかない。シャルには申し訳ないけど、あの子を囮にしてレベッカを捕まえることにしましょう。大丈夫、何かする前に止めればシャルに実害はない。
というわけで、今日もシャルのところに行きましょう。これは断じてストーカーじゃありません。
「ノヴァ、もしレベッカが近くにいたら教えてくれる?」
「がう!」
「さて。今日も怪盗スタイルで行きますか」
私は仮面をつけて、ハドレー城へと向かった。
―――
――
本日のシャルの予定は朝からずっと勉強。そしてお稽古。城から出る予定はないわね。だったら今日は特に心配することもないかしら。
座学を終えた後は乗馬の練習をするのね。いいわね、馬。でもお姫様が馬に乗る練習っているのかしら。あの子、馬車以外に乗ることもないんだし、別にいらないと思わなくもないけど、まぁ王家の人間である以上何でも出来ないといけないのよね。こういうところ、ちょっと面倒よね。
私は山で出会った野生の馬とか獣に乗ったりしてたから慣れっこだけど。
「……裏庭に移動するのね」
城の裏にある乗馬コース。森の中にも続いていて、結構な広さがあるのよね。幼いとき、一度乗せてもらったことがあったわ。いつもより高い目線で見る景色が新鮮でとても楽しかったのを覚えてる。
今はノヴァの背に乗ってもっと高い景色見れちゃうけど。
乗馬用の衣装に着替えたシャルがキアノと共に馬小屋へとやってきた。
うわぁ、乗馬ファッションって可愛いわよね。それを着こなすシャルも最高に可愛いわ。キアノは騎士服のままなのね。せっかくなんだから着替えればいいのに。城に男性用もあるでしょう。まぁいっか。
室内より外の方が狙われやすいから気を付けないと。とはいっても、キアノもいるし兵士の目もある。そう易々と行動は起こせないはず。
シャルは馬に乗って、ゆっくりと走ってる。慣れてないのか、ちょっと腰が引けているわね。そんなところも可愛いわ。さすがヒロイン。可愛さを存分に振りまいているわね。分かってるわ。
ここもゲームだったら一枚絵が出てくるところね。
「がう!」
「ノヴァ、どうし、っ!」
森の奥から何かが見えた。
何、光のようなもの。その光が放たれた方へ視線を向けると、後ろからシャルの叫び声が聞こえてきた。
「きゃあああ!」
「シャル様!」
「た、たすけ、て!」
シャルの馬が暴れている。さっきの光の方なものが馬に当たって暴走させたんだ。シャルは落ちないように馬にしがみついているけど、このままじゃ危ない。
落ち着かせようとキアノが駆け寄ったけど、シャルを乗せた馬はそのまま森の中へと全速力で走っていってしまった。
「ノヴァは向こうを追いかけて」
「がう!」
ノヴァにシャルを狙った犯人を追いかけさせて、私はシャルを追った。
距離的に木の上を飛び越えて、シャルの声がする方へと走る。山で鍛えた脚力を舐めないでほしいわね。
「はっ!」
シャルを見つけ、後ろに飛び乗った私は彼女の手から手綱を取って馬を宥めた。
大丈夫。大丈夫よ。もう何も怖くない。
「……!」
馬の前足に火傷のような焦げた跡がある。
そうか、さっきの光のようなものは炎だったのね。それで馬を怪我させて暴れさせたってことか。どうして馬に怪我させるのよ。岩落としたときもそうだったし。馬を巻き込むんじゃないわよ。
「……ふう」
どうにか馬を落ち着かせることが出来た。
そのうちキアノや兵士たちが追ってくるだろうし、私はさっさと退散しましょう。ノヴァが馬を怪我させた犯人を捕まえてくれてるだろうしね。
「あ、あの!」
馬を降りようとした私の服をシャルが掴んだ。
おっと。これはマズいわよ。またしてもヒロインのピンチに颯爽と駆けつけてしまった。でもキアノを待ってられなかったし、キアノの好感度を上げちゃうと私の予定が狂ってしまう。
「ま、また助けてくださってありがとうございます……」
「…………」
「あの、お礼を……お名前を……」
「……言ったはずだ。名乗る名前などないと」
私はシャルの手を振り払ってその場を走り去った。
あれかな。逆にミステリアスな感じにしちゃうと余計に気になっちゃうかな。フラグ立ってちゃうのかな。でも仕方ないの。今だけは仕方ないの。
早く次の王子様を。次の攻略対象に出逢うイベントを起こしてくださいお願いします。
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