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第3話
しおりを挟むこの十二年間、特に問題もなく平和な山暮らしをしている。
ベルの能力もこうやって正しく使えば誰も傷つけずに済む。平和な生活を享受出来るのよ。
私もこの世界に転生したことでこんなにも穏やかな時間を過ごせている。もう毎日辛くて苦しい社畜生活には戻らなくていいんだもの。最高としか言いようがない。
こういう田舎暮らしがずっとしたかったんだもの。自給自足だって慣れれば楽しいわ。そこそこ広い山に住み着いてるおかげで土地は余ってるから畑も作りたい放題よ。
それに、なんかよく分からないけどこの山に住み着いていた聖獣に懐かれちゃった。
「ぐるる」
「おはよう、ノヴァ」
外に出るとノヴァが私に顔を擦り寄せてくる。見た目は猫よりのライオンって感じ。オレンジ色の毛並みが綺麗で、太陽の下でキラキラと輝いてとても美しい。
本当の名前はノヴァーリス。だからノヴァって呼んでる。
この子と出会ったのはこの山に隠れてから二年経ったときのこと。まだ私よりも小さかったこの子が怪我をしていて、介抱してあげたことで懐かれてしまった。
今では私の倍くらい大きくなっちゃったけど。
ああ。これよ、これ。私が望んでいた生活。誰もいない場所でペットと一緒に慎ましく暮らす。これ以上の幸せはないわ。
「明日は誕生日ね」
「ぐるる?」
「ええ。また城に様子を見に行くつもりよ」
私は毎年、誕生日に城へ戻っている。もちろん、誰にも見つからないように。
この日は必ず誕生日パーティーを開く。私が家出した年だけは行わなかったけど、それ以外は開催されている。
そこでシャルの様子を見に行くのが恒例行事みたいなもの。私がいなくなったせいで時期女王としての責任を全てあの子に押し付ける形になってしまった。
私があの子のそばにいるよりずっとマシだと思うけど、それでも申し訳ないとは思ってる。
私がこうして山で平和に暮らしている間に、あの子は厳しい教育を受けさせられているのだから。
だから毎年こっそりと顔を見に行っている。
それに、ここ数年であの子の周りが少しずつ変化している。
十八の誕生日が近づくにつれて、時期女王の命を狙おうとする者が増え始めたのだ。
他国の王族や他の貴族が王家の座を狙って動いている。シャルを人質にすれば王位継承権を得られると、多くのものがあの子の首を狙ってるのよ。
だから私は、あの子へ全てを押し付けた責任を取るために、そういったものからシャルを守ろうと決意した。
ここ数年は遠くからあの子を見張り、怪しい者から守ってきた。
私の魔法特性と山暮らしで鍛えた肉体と、君100において最凶と謳われたベルのチート級の身体能力があればどんな相手だって敵じゃない。
この力で私があの子を守るのよ。せめて十八の誕生日まで。そこからはあの子を守ってくれる王子様達が現れる。
シャルが素敵な王子様を見つけて、その人と幸せなエンディングを迎えてくれれば私の役目も終わる。
それまでは、大事な妹を守りきってみせるわ。
私は悪役令嬢になんかならない。
誰も傷付けない。
私はナイフを手に取り、長い髪を切り落とした。
正直、動くのに邪魔になるのよね。それに私がベルだってバレるわけにもいかない。もっと早くこうしておけばよかった。
なんかベルのイメージを保つために何となくロングヘアを維持しちゃったけど、その必要はなかった。
バッサリと短くなった髪。涼しい首元。
悪役令嬢の象徴のような長い髪はもういらない。
「がうっ」
「何、ノヴァ。あなた、髪なんて食べるの?」
「がうっがうっ!」
「まぁいいけど、お腹壊さないでよ?」
私が手渡すと、ノヴァは魔力で髪を燃やしてその炎を食べた。
なるほど。そういう食べ方もあるのね。髪の毛は魔力を宿すし、きっと私の力を食べたのね。
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