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第三章
第22話 砂漠に咲く花
しおりを挟む「神子様。うちで採れた野菜です、どうか召し上がってください」
「ありがとうございます」
「神子様、今日もお花をいただけますか?」
「もちろんです」
遠い遠い、南の地。
砂漠の中にあるヴァニエの街で、ディゼルは皆から慕われていた。
この乾いた地で花を咲かせることが出来る彼女は、神の愛娘、奇跡の神子と呼ばれるようになった。
「みこさまー」
「あら、ミリィ。今日も来てくれたのね」
「うんっ! みこさま、今日も御髪を結わせてくれる?」
「どうぞ」
彼女に一番懐いてる幼き少女、ミリィ。この地では珍しい黒髪を持つディゼルの髪が好きで、触れることを許してからは毎日のように訪れるようになった。
「ふふ、ミリィってば神子様のことが本当に好きね」
「うん! みこさま、とってもキレイなんだもの!」
背中からディゼルに抱きつくミリィ。その無邪気な笑みに、ディゼルもそっと微笑んだ。
ミリィは生まれて直ぐに母を亡くし、父も数年前に他界したらしい。今は叔父の元で暮らしているが、あまり大事にはされていないようだと街の人から聞かされた。
ディゼルは少し、彼女に親近感を覚えた。だからなのだろうか、ミリィに甘えられると全てを許してしまいたくなるのは。
「ミリィ、今日は果物を貰ったの。たくさんあるから、あなたも食べていきなさい」
「みこさまの貰い物を私が? いいの?」
「ええ。私一人では食べきれないもの」
「ありがとう、みこさま!」
ディゼルはカゴに入った林檎を手に取り、ナイフで皮を剥いて食べやすいように切り分けていく。
甘く熟した林檎は甘酸っぱく、とても瑞々しがった。
「……私もこれくらい熟したら食べてもらえるかしら」
「え?」
「いいえ、こちらの話。ほら、あなたも食べなさい?」
「うん! いただきます!」
ミリィはディゼルの切った林檎を口いっぱいに頬張った。
美味しそうに食べる少女の無垢な笑みに、ディゼルも自然と笑顔になる。
「美味しい?」
「はい! とっても甘くて美味しい!」
「それは良かった」
「みこさま、優しくてキレイで、母様みたい」
「お母様?」
「うん! 父様がね、いつも言ってたの。母様はとっても優しくて、世界で一番キレイだったって! だからね、ミリィは初めてみこさまを見たとき、母様みたいだって思ったの!」
笑顔で話すミリィに、ディゼルは少しだけ胸が痛くなった。
ディゼルは優しい親を知らない。彼女の親はいつも鬼のような形相で睨みつけていた。優しくされたこともない。綺麗だと思う瞬間もなかった。
そんな酷い親が健在で、ミリィの優しい両親が既に他界している。本当にこの世は理不尽だと、ディゼルは改めて思った。
「……またおいで、ミリィ」
「はい、みこさま!」
そう。この世は理不尽で満ちている。
それを知った時、この少女は何を思うのだろう。ディゼルはミリィの頭を優しく撫でながら、そんなことを考えた。
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