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番外編
「彼が魔王と呼ばれるまでの話」③
しおりを挟む私も覚悟を決めましょう。
天に戻ることが出来なくなってもいい。私は、この子に興味を持った。
天界は確かに心地の良い場所かもしれない。でも、そこに自分の居場所があるとは思えなかった。
だから、彼のそばで見つけたい。
「あの……り、リードリールさん……?」
「リードリールで構いませんよ。クラッド」
「リード、リ、ル……リド」
「愛称、というものですか。いいですよ、貴方の呼びやすい方で」
「リド、は、なんでぼくを助けてくれたの?」
「貴方に興味を持ったからですよ。私は貴方の後ろを勝手についていくので、どうぞお気になさらず」
私がそう言って笑って見せると、クラッドは不思議そうな表情を浮かべた。
別に彼のすることに私は口を出す気つもりはない。ただ彼がこの先どう生きていくのかを見ていたいだけなのだ。
「でも、ぼく……これから、どうすればいいのか……」
「人間を許さないのでは?」
「それは、そうだけど……ぼく、弱いし……」
確かに彼からは貧弱な魔力しか感じられない。
でも、心の奥底に眠る彼本来の力に火が付けば、一気に燃え上がるはずだ。誰にだって潜在能力がある。それを覚醒されられるかどうかは、本人次第。
きっと彼は成長する。あの業火の炎のような瞳が、それを物語ってる。
「大丈夫ですよ。力をつけたいのであれば、私も微弱ながらお手伝いします」
「ほんと?」
「ええ。魔法の使い方くらいでしたらお教えできますよ」
「ありがとう、リド!」
さっきまで不安そうな表情だった彼が、目をキラキラさせて笑った。
ずっと沈んだ顔しかしてなかったせいか、その明るい表情に一瞬ドキッとしてしまった。
ちゃんと、笑えるんですね。当然だけど、今の彼は住んできた場所と親を亡くしたばかりで心が傷付いてるはず。そんな彼を笑顔に出来たのは、少し嬉しい。
「とりあえず、人間から隠れられる場所を見つけないといけませんね。貴方は食事も取らないといけないでしょうし」
「リドは?」
「私は天使なので食事は必要ないですよ」
「天使ってお腹空かないんだね」
「ええ。命を頂く行為は禁じられていますし」
果物は食べれるけど、お腹が空くことはないので食事を必要としない。
それを聞いたクラッドは目を丸くしていた。そんなに驚くことでしょうか。
「お肉、食べれないの?」
「ええ」
「お魚も?」
「え、ええ」
「美味しいのに……」
クラッドが悲しそうな顔で私を見る。
食事をしないことがクラッドにとっては信じられないことだったのか、暫く残念そうにしていた。
空腹を満たすだけの行為がそんなに大事なのか。
下界のルールはよく分からない。
「そんなことより、近くに森があります。人の気配も感じられませんし、とりあえずそこに行きましょう」
「うん……」
まだしょんぼりしてる。
さっきみたいに笑ってほしいのに、どうしたらいいのだろう。
キラキラと輝く瞳を、もう一度見たい。
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