51 / 80
番外編
「諦めかけた夢を手放さないように。」※
しおりを挟む父さんと母さんは、夜まで帰ってこない。
それまで、俺と蓮は2人きり。
俺たちは、ベッドに横たわって繰り返し唇を重ねていた。
もう二度とこんなこと出来ないと思ってた。
もう二度と、触れることはないと思ってた。
それが今、目の前にいる。
もう何の隔たりもなく、ただただ1人の男として、愛することが出来る。
「……ん、ふぅ……」
「……っ、すげぇ……夢みたいだ」
「夢……?」
「だって、あの洞窟での最後……俺は夢で見てたけど、もう二度とお前を抱けないんだって悲しかったんだ。あの時、伊織が去っていった後、ずっと苦しかった」
蓮は俺をキツく抱きしめた。
本当にあれが最後だと思っていた。勇者に俺が魔王だって正体をバラして、最後の戦いがあった。
お前を、勇者を殺すつもりだったから、もう二度と会うことはないと思っていたのにな。
「ナヴォイス国で助っ人を頼まれて、どう戦おうかなんでいたら、君が現れた」
「ナヴォイス?」
「お前、国の名前も覚えてないのかよ。戦をしてた国の一つだよ」
「ゲームでも出てこなかったし、クラッドも知らないことは俺も知らないんだよ」
それに、国の名前なんて知ったところで意味なかったし。今更知ったところでどうしようもないし。
「まぁ、とにかく。そこで伊織が現れたときは驚きもしたけど、魔王だって分かって納得したんだよ」
「え?」
「伊織、完全に気配や魔力を遮断してただろ。おまけに洞窟に張った魔法陣の効果を考えても、その辺の魔物とは全く違っていた。ここまで出来るのは相当な力を持った魔物だ。それに何より……勇者として、勘付かない訳ないんだよ」
「分かってて、お前は……」
「なんでだろうね。俺の意識が反映されていたのか分からないけど、出逢った時から伊織のことは気になってたよ。この場合、一目惚れって言葉が正しいのか微妙なところだけど……まぁそれでなくても、勇者として、人間として、価値観を壊してくれた伊織のことを意識するようになった」
「……蓮」
「さすが魔王だったな」
価値観を、壊す。
そうか。俺は単純に勇者を助けたかっただけだったけど、それが結果として勇者の認識を変えたのか。
俺は、俺に出来る形で世界の在り方を変えられたのか。
「……それで、お前は?」
「え?」
「伊織は、勇者が好きだったんだろ。蓮を好きになれる?」
「まだ言うのかよ」
「そりゃあ、ちゃんと聞いておかないと先に進めないし……」
「……確かに、俺自身がお前と会うのは目を覚ましてからだったけど……あの日、俺を助けてくれて、ずっと目が覚めるのを待っててくれたのはお前だろ。あの水晶でお前のことを見た時から、エルと蓮は同じ人物だと俺の中で思ってたし……お前に会いたいと思ってたよ」
「俺に……?」
「もっと早く、お前に会えてたら、何か変わってたのかなって……本当は出逢ってたみたいだけど」
別に、蓮にエルの面影を重ねてるワケじゃない。
俺は俺自身として、蓮を好きだと思ってる。
この世界でお前に会いたいと思って本気で泣いたんだ。そんな日は訪れないと思って、どれほど胸を痛めたか。
それが今、こうして一緒にいられる。願った未来が、目の前にいるんだ。
「俺が会いたいと思ったのは、確かにお前なんだよ」
今俺が言えるのは、それだけだ。
蓮がエルだから好きなんじゃない。エルのことも確かに好きだし、憧れだけど、それとは別に、お前への好意もちゃんとある。
この気持ちに嘘はない。どっちが上とか、そんなものないよ。
「うん……うん、ありがとう。俺も伊織に会いたかった。目を覚ましてくれてありがとう」
「ああ……」
俺は蓮に唇を重ねた。
どうか、信じてほしい。この気持ちを。
「じゃあ、もう我慢しない」
「え、うわっ!」
蓮が体を起こし、俺の上に覆い被さった。
我慢してたのか。いや、俺だってそういう雰囲気を予想して誘ったんだけど、やっぱり慣れないな。
この世界の俺の体は経験ないんだぞ。未経験だぞ。そりゃあ緊張もするだろ。
「……」
「……蓮?」
蓮が俺の上に乗ったまま動かない。何してんだ、コイツ。
「いや、初めてやったとき思い出しちゃって……」
「初めて、って……あの宿の?」
「そう。あの時の俺にとっては夢だったのに、お前を抱いた感覚とか全部伝わってさ……起きたときマジでヤバかったんだぞ。ジャージも布団もぐっちゃぐちゃでさ」
「そ、そうか……」
「二回目なんかもっと酷かったぞ。親にバレないように洗濯するの大変だったんだからな」
言うな、そういうこと。改めて言われるとこっちも恥ずかしいんだ。
てゆうか、そういう話ならあの時の俺の体ってどうなってたんだ。大丈夫だったのかな。なんか心配になってきた。
「……お、俺の、伊織の体でも、その、大丈夫かよ」
向こうの世界の俺と違って、今の俺は普通の男子高校生だぞ。地味だし、ひょろいし、見ても面白くないだろ。
「アホか。俺は伊織が好きなんだぞ。こうしてるだけでメッチャ興奮してんだ」
「っ!」
蓮が腰を押し当ててきた。確かに、興奮してる。
ゴリゴリと昂ったそれは、俺に対して欲情してる証拠ってことだよな。
良かった。俺で、大丈夫なんだな。
それだけで満足してしまいそうになる。
俺達は夢中でキスをしながら、乱暴に服を脱ぎ捨てた。
直接触れ合う肌。少し汗ばんだ蓮の熱を感じる。
そういえば、向こうの世界では2回とも服を着たままだったな。
肌で抱き合うの、こんなに気持ちいいんだな。このままずっと抱きしめてて欲しくなる。離さないでほしい。
この熱で、溶けてしまいたい。
「……ん、ぁ」
「伊織……」
蓮の唇が、俺の体中に降り注ぐ。
自分のものだと主張するように、赤い痕を全身に付けていく。
蓮が肌に吸い付く度に、体が反応する。心臓が跳ね上がって、一つ一つ熱を貯めていくみたいだ。
「ゃ、あっ……あ、あ……」
「伊織、可愛い……」
「ば、か……」
なんでそう恥ずかしい台詞を簡単に言えるんだよ。可愛い訳あるか。
余裕のない俺は、蓮に翻弄されてばかりだ。だけどそれで興奮してるんだから、俺の体はそうされることを望んでいるってことだろう。
蓮の手が、俺のモノに触れる。緩く勃ち上がったそれを握られ、体が小刻みに震える。
「っ、あ、あっ!」
「痛くない?」
「だ、いじょ、ぶ……きもち、い……」
俺の反応を見ながら、蓮が手を動かす。
この体は初めてのはずなのに、前に抱かれた時の感覚を覚えてる。早く欲しくて、体の奥が疼いてる。
「伊織、腰が揺れてる……それ、すげぇエロい……」
「う、っせぇ……」
「たまんねーな、その顔……」
蓮は俺の足を持ち上げ、その間に顔を埋めた。
俺のモノが蓮の口の中に飲み込まれる。温かくて、ぬるりとした感触に体がビクビク震える。
舌が。唇が。喉が。俺のを愛部する。今まで感じたことのない感触に包まれて、だらしない声が抑えきれなくなる。
ヤバい。頭、溶けてなくなりそう。
「あ、あっ、あぁあ、あっ! れ、んっ!」
俺のを咥えながら、蓮の指が後孔に触れる。
固く閉ざされたそこを蓮の指と舌が解していく。
俺の体を思って慣らしてくれてるのは分かる。でも奥が疼いて仕方ない。もう欲しい。我慢できない。
「も、いい、から……」
「でも……」
「いい、から……蓮の、挿れて……?」
「っ、それ反則……」
蓮は顔を離し、濡れた口周りを拭う。
互いの腰を近づけ、蓮の昂ったそれを後孔に当てる。
熱いそれが、ゆっくりと入っていく。
さすがにこの体は初めてだから、その大きさに多少の痛みと圧迫感はある。でもそれ以上に、この熱を求めてる。溢れ出る快楽が、全身に満ちてる。
「はっ、あっ、ああ、あ……!」
「っ、く……きつ……伊織、大丈夫?」
「んっ、へ、いき、だから……もっと……」
「煽んないでよ……かなりヤバいんだから」
ゆっくりと蓮が腰を動かす。
奥に当たる度に頭の中に電気が走るみたいだ。
気持ちいい。
理性なんて吹っ飛ぶ。蓮のこと以外、考えられなくなる。
「あっ、あ、ああ、んっ、あ!」
「す、げ……メッチャ気持ちいい……腰、止まんない……!」
「い、いっ、もっと、して……!」
「……っとに、どうなっても知らないよ……!」
蓮が俺の腰を掴み、律動を激しくした。
ヤバい。目が、チカチカする。声も抑えられない。何喋ってんのか分からなくなる。
「いいっ、きもち、いっ、ん、あっ! あっあっ! も、イ、く……イくっ」
「っ! く、っ……伊織、もう……!」
「ん、っ! おれ、も、イッちゃ、う!」
さらに奥を突かれ、俺は絶頂に達した。それを追うように蓮もナカで自身のそれを震わせて欲を吐き出した。
一気に襲い来る脱力感。俺達は肩で息をしながら、弱々しく抱き合った。
「……体、平気?」
「ん……だいじょーぶ……」
声が掠れてる。
体中、汗まみれだ。
元々運動不足の俺の体は、もう悲鳴をあげてる。病院でリハビリしたとはいえ、さすがにキツイ。
でも、それ以上の幸福感。
満たされた感覚で、胸がいっぱいだ。
「終わりじゃ、なかったな……」
「そうだよ。これは、伊織とクラッド、2人が作った未来だよ」
「お前が、俺を助けてくれたおかげだろ。さすがに電車に引かれてたら、入れ替わったクラッドの魂まで消えていたかもしれない……ありがとう……」
偶然か、必然か。
いくつも重なり合ったものが、今を築いてくれた。
一度諦めた想いを、繋いでくれた。
だから俺は、生きるんだ。
最後まで。
10
読んでくださってありがとうございます
お気に入りに追加
818
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる