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第一部
42話 「頼もしい仲間」
しおりを挟む「そういえば、さ」
「どうしました?」
「俺、クラッドの記憶が所々ないんだけど、2人っていつから知り合いなの?」
せっかくだから、俺は気になってることを聞いてみることにした。
全部知られてるんだからもういいよな。リドの前ではもうクラッドである必要はないんだ。
「おや、覚えていないんですか?」
「うん。クラッド自身が忘れてる記憶が抜けてるのかなって思ったんだけど」
「……うーん。それもあるとは思いますが、単純に彼が君に見られたくない記憶が抜けてるのかもしれませんね」
「俺に?」
「誰にでも人に知られたくない過去の一つや二つあるものでしょう?」
「まぁ、そうだね。でも二人の出会いって知られたくないものなの?」
「そんなことないですよ。ただ、恥ずかしかっただけだと思います」
恥ずかしい出会いだったのだろうか。全然想像できない。そう言われると物凄く気になる。メチャクチャ気になる。
リドって昔は天使だったみたいだし、いつ悪魔になったのかとか色々と知りたいけど、聞いてもいいのかな。
「知りたいですか?」
「まぁ、ちょっと」
「そんな大した話ではないんですよ。ただ、私が天界にいたとき、気まぐれにやってきた下界でクラッド様に出会い、彼に惹かれたってだけの話です」
「え!?」
「悪魔に心奪われた天使。当然、純白の羽を剝奪され、地に堕ちました。そうして悪魔となった私は、魔王となった彼に付き従うようになったんです」
さらっと説明されたけど、二人にそんな過去があったなんて意外だな。
そうか。リドはクラッドのことが好きだったんだ。そりゃあ俺と入れ替わるのも反対だっただろうな。
でも、知ってるのかな。前世の俺は死んでる。入れ替わったってことは、つまりそういうことだろ。
「……大丈夫ですよ、貴方が言おうとしてることは分かってます」
「リド……それじゃあ」
「ええ。あの方が選んだんです。今しかない、と」
「死ぬって分かってて、俺と……?」
「彼なりに、もう一人の自分である貴方を守りたかったのでしょうね」
そうなのか。二人のことは知らないことだらけだ。もっとちゃんと、話がしたかったな。
俺はクラッドの記憶でしかアイツを知らない。お礼も何も言えないなんて、少し悲しい。
「リドは、悲しくないのか」
「それは、当然悲しいですよ。ですが、彼の願いですから。彼の望みが私の生きる理由。だから、今の私は貴方を支えることが生きる理由なんです」
「……強いな、リドは」
「そんなことはありませんが……そうですね。強いて言うなら、最後の言葉を言えなかったことが心残りですね」
「最後……?」
「ええ。彼は一人で儀式を行いましから……事前に貴方の死を未来視したと一言だけ告げて、消えてしまいました」
リドは悲しそうな表情で微笑んだ。
クラッドは最後の瞬間を見せたくなかったのかな。今となっては分からないけど、残されたリドが可哀想だ。
だって、クラッドは確かにもういないけど、中身が違うだけでこの体はクラッドのものだ。同じ見た目の奴がそばにいるなんて、見てて悲しくなっちゃわないかな。
俺なら、嫌だな。思い出してツラくなりそうだ。
「やっぱりリドは強いよ。俺だったら毎日泣いてるかもしれない」
「それでしたら、貴方の方が強いと私は思いますよ?」
「俺が?」
「ええ。勇者と戦う意思を決めた貴方は、とても強い心を持っています。どうか、自信を持ってください」
「……うん。リドにそう言ってもらえると、凄くヤル気出てくるよ」
「光栄です、我が王」
ずっとクラッドに仕えて、俺のことを支えてくれる人。これ以上ないくらい頼もしい仲間だ。
本当に、リドが俺を受け入れてくれて良かった。じゃなかったら俺はこの世界で生きていけなかったんだから。
「そういえば、フォルグが神剣の封印方法をいくつか考えてくれましたよ」
「本当? 仕事が早いね」
「ええ。神剣の封印なんて面白そうだって張り切っていましたよ」
「そっか。じゃあ、俺もみんなの期待に応えないとだね」
「貴方なら大丈夫ですよ」
「うん!」
あとはもう、勇者が魔王城に来るのを待つだけ。
こっちの準備は万端だ。俺は逃げも隠れもせず、お前を待つ。
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