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第一部
23話 「勇者と一緒にダンジョン攻略②」
しおりを挟む「……っ。目が眩む・……一体、何があった?」
「真実を映す、か……」
「……どうしたんだ、イオリ」
「いや、なんでもない。それより、ほら」
俺は水晶をエルに手渡した。
残念ながら俺が望んだ結果は出なかった。また別の方法を見つけないといけないな。
「それじゃあ、出口までは付き合ってやる」
「……」
「おい、どうした?」
「いや……お前こそ」
何が、と聞こうとした。でも出来なかった。
エルの手が、俺の頬に触れたから。
「……え?」
「泣いてる。あの一瞬で何かあったのか?」
俺は慌ててエルから離れた。
泣いてる? なんで? 泣くようなことがあったか?
袖で目元を拭ったけど、涙が溢れて止まらなかった。意味が分からない。泣く理由が分からない。もう一人のエルに会ったからなのか? それだけで泣いてるのか?
もしかしたら、俺が少しでも何か行動を起こしていたらアイツに会えた未来も存在していたのだろうか。
ちゃんと人間同士で、友達になれる可能性もあったのかな。
在りもしない未来に、俺は悲しんでいるというのか。
馬鹿じゃないのか。そんなの夢みたって意味がないのに。
「イオリ……」
「……っ、別になんでもない……放っておいてくれ……」
「出来ないよ、そんなこと」
エルの手が、俺の頭をそっと撫でた。
優しくするなよ。余計に惨めだ。俺はもう、お前の隣に立てないんだぞ。対等になることはできないんだぞ。
もしかしたら、なんて考えるだけ無駄なのに。あり得たかもしれない未来を見せられて、俺はただただ泣くしかできない。
そんな真実なら、知りたくなかった。
「いいから、先に帰れよ……もう平気だろ」
「言ってるだろ。それは出来ない」
「なんで……」
「泣いてるお前を、一人にしたくない」
「俺は、魔物だぞ」
「知ってる。それでも、嫌なんだ」
エルは俺を抱きしめた。
なんでそんなことするんだよ。馬鹿なんじゃないのか。
俺はこみ上げてくる感情を抑えておくことが出来ず、子供みたいにわんわん泣き出してしまった。
最後にこんなに大声で泣いたの、いつだったかな。もう思い出せないくらい昔のことだろう。
エルは何も言わず、ただ俺の頭を撫でてくれてる。
優しいな、勇者様は。こんな俺のことまで気にかけてくれちゃってさ。
誰にでも優しい。それが勇者だ。俺じゃなくても、お前はそうなんだろうな。目の前で困ってる人を放っておけない。
だから、好きになったんだけどさ。
「……っ、もう、平気……」
「でも……」
「いいから……」
鼻声のせいで何もカッコつかないけど、俺はエルの胸を押して引き離した。
だけど、エルに両腕を掴まれたせいで逃げられない。
落ち着くとかなり恥ずかしいことしてるよな、俺は魔王なのに。気付いたら魔物の姿に戻ってるし、どれだけ余裕なくしてるんだよ。
「……イオリ。あの光の中で何か見たのか?」
「なんでもない」
「……そうか。無理に問いただすつもりはないけど……無理はするなよ」
「無理してるのはお前だろ。一人でこんなところに来たりして……変なことにこだわってないで、さっさと仲間作れよ」
「それは……出来ない。俺は自分の意志を曲げない」
「なんでだよ!? 無理してまで魔王と戦う必要あるのか!? 仲間がいた方が確実じゃねーか! そんな非効率なことしてまで通したいものってなんだよ……」
「……俺の、つまらないプライドだよ」
「わっかんねーよ、そんなの……」
駄目だ。考えがまとまらない。
こんな死ぬかもしれない無茶してまで貫き通したいプライドって何だよ。俺には理解できない。
そもそも、俺は魔王だ。コイツの心配なんてする必要もないのに、なんでこんな苛ついてるんだ。訳わかんない。何も分かんないよ。
ただ、無茶ばっかりして一人で戦う道を選んだコイツが無性にムカつくんだ。
本当だったらみんなに囲まれて、仲間からも慕われてる存在なのに。おかしいじゃんか、こんなの。
魔王になった俺の方が、よっぽど良い。クラッドが築いてきた信頼、慕ってくれる仲間たちがいる。
俺の憧れの勇者が、こんなにズタボロになってていいわけないのに。
「……もっと、自分大事にしろよ……あほ勇者」
「イオリ……また泣いてるのか」
「泣いてねーよ……」
俺は俯いたまま、顔を上げられなかった。
今の自分が情けなさ過ぎて、ぐっちゃぐちゃの泣き顔なんか見られたくない。
コイツの前だと、何も上手くいかない。感情が不安定になる。心の中、掻き乱されてばかりだ。
「……俺のために、泣いてるの?」
「っざけんな……自惚れてんじゃねーよ……」
「でも、涙が止まってない」
「いいから、もう帰れよ……トラップはもう解いてあるんだから一人でも平気だろ……」
「さっき、出口まで付き合ってくれるって言っただろ」
「気が変わったんだよ! いいから、俺なんかに関わるな!」
「……それは、無理だよ」
エルは片手を離し、その手で俺の頬をそっと持ち上げて顔を上に向けた。
俺の泣きじゃくったみっともない顔を見られてる。
なんで見るんだよ。俺は顔を反らすことが出来ず、目線だけ外した。
「……離せよ」
「嫌だ」
「……なんで」
「嫌だから、だよ」
腕を掴んでる手に力が込められた。
そして、ゆっくりと俺の顔に影がかかる。
近付く吐息。
重なる唇。
どうして、俺の体は動かないんだ。
突き放さなきゃいけないのに。頭では分かってるのに。俺の体からは力が抜けて、それが当たり前のように彼に身を委ねていた。
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