【BL】勇者推しの俺が何故か敵対する魔王に転生してました。

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
上 下
22 / 80
第一部

22話 「勇者と一緒にダンジョン攻略①」

しおりを挟む




 こんな難易度の高いダンジョンに一人で挑む馬鹿は誰かと思えば、まさかの勇者様とは、さすがに驚きを隠せない。
 俺がここにいることに向こうも驚いているみたいだけど、この状況は少しマズいな。今更かもしれないけど、俺はとりあえず気配を抑えておいた。

「……イオリ、何故ここに?」
「お、お前こそ……ここは一人でクリアできるような場所じゃないぞ」
「すまない……この場所にある宝玉を手に入れに来たんだが……」
「だから仲間作れって言ったのに。ここはモンスターが出ない代わりにトラップや呪いがメチャクチャ張り巡らされているんだぞ」

 むしろ、ここまでよく辿り着けたものだよ。普通なら死んでいてもおかしくない。現に俺はゲームで何回も死んだ。心折れるかと思ったよ。
 てゆうか、今の勇者のレベルでここを攻略するのは相当無茶だ。

「引き返せ。もうボロボロじゃねーか」
「それは出来ない。ここまで来て諦めることは……」
「そうじゃなくて、仲間を見つけてもう一回やり直せって言ってんだよ」
「俺は、仲間は……」
「面倒とか言ってる場合かよ。お前、死にかけたんだぞ」
「……そう、だけど……」

 頑なに仲間を作ろうとしない。そんなにお前一人で魔王と戦いたいのか。そういうのは周回プレイが出来なきゃ無理だって。現実は一周しか出来ないんだから、諦めろ。ゲームじゃないんだからトロフィー収集とかないだろ。
 このまま放っておいてもコイツ一人で先に進んじゃいそうだし、トラップに引っかかって死んじゃうかもしれない。
 さすがにこんな人の近寄らない場所で勇者に死なれたら困る。毒沼に落ちたら死体も残らないし、そんな勇者の最後は俺が嫌だ。

「……ったく、仕方ないな……」

 俺はため息をつき、覚えたての魔法を試すことにした。
 元の魔王の姿に戻れなかった時のためにリドに教わった変化の魔法。

 イメージするのは、人間の姿。もし他に冒険者が入ってきたときに見られても問題ないような普通の人間。
 俺はそのイメージを構築させ、魔力を体に纏いながらエルの前へと移動した。

「……イ、オリ?」
「……っ、と。ちゃんと変わったかな」

 俺は自分の両手や体を見た。体に感じる重さも違う。髪の毛の長さも、服装も、全部変わった。変化成功だな。
 顔は見えないから確認しようがないけど、俺は前世での俺、一之瀬伊織の姿をイメージした。一番見慣れた顔だから変化しやすいと思って元の自分の姿にしたけど、この世界で高校の制服は不似合いだったな。でも自分をイメージしたら自然とこうなってしまった。

「本当に、イオリなんだな」
「魔物の姿だと誰かに見られたとき都合悪いからな。俺もここの宝玉に用があるんだ。その用事が済んだらすぐにお前にくれてやるから、さっさと行くぞ」
「あ、ああ……それにしても、本当に普通の人間のようだな。でもその恰好は?」
「気にするな。遠い世界の正装だ」
「そうなのか……でも、よく似合ってる」
「そりゃどうも」

 制服なんて誰でも似合うように出来てるんだよ。普通のブレザーだしな。
 ただ、こんなダンジョンで制服って物凄く違和感。どう見ても浮いてるよな。
 でも、この目線や手足の感じは懐かしい。しっくりくるな。

「てゆうか、お前はなんで無茶して宝玉なんか取りに来たんだよ」

 先に進みながら、俺はエルに聞いてみた。
 どう見ても推奨レベルに達してないし、今来なきゃいけないような理由もないと思うんだけどな。

「……ここにある宝玉を使えば、強い防具を作れると聞いて来たんだ」

 確かにここの宝玉は勇者専用装備を作るのに必須アイテムだけど、今じゃなくないか。ゲームだったら中盤くらいに来る場所だぞ。
 その宝玉で鍛えた防具はその者の潜在能力を引き出してくれる。つまりはステータスがメチャクチャ上がるわけだけど。

「そんな急ぐことなくないか」
「いつでも勇者は強くないといけないんだ。その辺の魔物に苦戦しているようでは、みんなの希望にはなれない」
「……無茶して希望が潰えたら意味ないだろ」
「そうだな……イオリにはまた助けられてしまった。借りが出来たな」
「いいよ、そんなの」

 別に恩を着せるために助けたわけじゃないんだ。
 そんなことより、もう無茶なことしないでさっさと仲間でも作ってほしいもんだな。そうすれば俺のことなんかもう気にかけてられないだろうし。

「それより、もうすぐ最深部だ」
「ああ」

 二人で協力してトラップを突破し、目的の場所へと到達した。
 一面が水晶に囲まれた、まるで鍾乳洞のような神秘的な場所。この奥にある祠にある幻の水晶。

「……美しい」
「ああ。綺麗な場所だな……実際に見てみると全然違う」
「宝玉は、あの祠にあるはずだ」
「ああ」

 そういえば何も考えずに来ちゃったけど、もしここで俺が魔王の姿に戻っちゃったらどうしよう。どうにか誤魔化せるかな。
 でもここまで来たら引き下がれない。俺はその水晶にそっと手を触れてみることにした。

「……何も、ない?」
「イオリはそれで何がしたかったんだ?」
「えっと……まぁ色々とあって」

 言い訳が思いつかなくて適当に応えたけど、苦しいな。
 元の姿に戻りたいなんて言っても仕方ないし。

「……っ? おい、イオリ!」
「え? っうわ!!」

 いきなり水晶が光りだして、俺たち二人を照らした。
 眩しい。目を開けていられない。
 もしかして、本当に元に戻れるのか?
 俺はうっすら目を開けて、自分の姿を確認した。でも、何も変わってない。一之瀬伊織のままだ。
 なんだ、やっぱり無駄だったのか。

「おい、エル。大丈夫、か……?」

 隣に目を向けると、そこにいたのはエルだけどエルじゃない誰かがいた。
 俺と同じ制服。でも知らない。誰だ。
 もしかして、もう一人のコイツなのか。俺が魔王クラッドのもう一人の自分であったように。

「な、なんだこれ……ここはどこだ!?」
「っ! お前……」

 今ここにいるのは現世の世界での、もう一人のエルなのか。
 どうしよう。今の俺も一之瀬伊織のままだ。今のコイツがどういう状況でここにいるのか分からないけど、どう説明すればいいんだよ。

「俺、授業中に居眠りして……じゃあこれ夢か?」
「……」
「って、お前……一之瀬?」
「……っ!?」
「なんでお前が夢の中にいるんだ……?」
「……お前、俺のこと知ってるのか」
「は? そりゃあ知って……」

 そうか。お前は近くにいたのか。でも俺は気付けなかった。クラスメイトの名前も顔もまともに覚えちゃいないんだ。
 前世でちゃんと出会えていたら、何か変わったのだろうか。いや、そんな訳ないか。あの時の俺は自分の身を守ることで精一杯。周りのことなんか見てる余裕なんて微塵もなかった。

 水晶の光が弱まっていく。
 エルも元の勇者の姿に戻っていた。もう一人のアイツはきっと夢だと思ってる。目が覚めたら忘れてるだろうな。
 会えて、嬉しかったよ。

しおりを挟む
読んでくださってありがとうございます
感想 30

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...