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第一部
21話 「難易度MAXダンジョンを攻略せよ」
しおりを挟む「おはようございます、魔王様。本日の調子はいかがですか?」
「ようやく口の中の気持ち悪い感触も消えた……もう大丈夫、ありがとう」
フォルグが持ってきたゼリーのせいで死にかけたけど、魔王の治癒能力とリドの回復魔法のおかげで何とかなった。おかげで二日も寝込んじゃったけど。その間、エルも約束の場所には来なかったから助かった。あんな状態でさすがに会いに行けないし。
でもあれ、なんだよ。味は最高に美味しかった。だから触感悪くてもガンガン食べれちゃって、おかげで最悪の結果を招いてしまった。もう体は平気なのに、まだ胃が違和感あるような気がして仕方ない。
「魔王様、今日はどうなさいますか?」
「え? 特に予定はないけど」
「でしたら、オッドリオン遺跡に行かれてみるのはどうです?」
「遺跡?」
「ええ。フォルグがあの場所に眠る宝玉でしたら、もしかしたら元に戻れる可能性があるかもしれないと」
「遺跡の宝玉……って、ああ! 古の宝、真実を映す幻の水晶か」
「ええ。今はもうあそこに魔族も人間も近付く者はいませんが、可能性はゼロじゃないかと」
オッドリオン遺跡。ゲームでも苦労させられたな。でも確かに、難易度マックスのダンジョンでも魔王なら余裕だろ。トラップも回避できそうだし。
「じゃあ行ってみる。暫く留守にするかもしれないけど大丈夫か?」
「ええ。どうぞお気を付けください」
「うん。その前に、ピュールに胃に優しい朝ごはん用意してくれるように頼んでほしい……」
ーーー
お粥って優しいよね。
美味しくてお腹が痛くならないご飯を食べた俺は、さっそく遺跡へと向かった。
オッドリオン遺跡は南方にある砂漠地帯の真ん中にあるダンジョンだ。ゲームの説明書には何千年も前に作られた王家の墓って書いてあったから、要はピラミッド的なものなんだと思う。
この場所は魔物は一匹も出てこない。トラップが多くて、呪いのアイテムとかもあったりするからモンスターも住めないんだと思う。
まぁ、トラップなんて俺には関係ない。浮けば地面踏まなくて済むし、不可視化出来るし、謎解きもゲームでやったから覚えてる。
やっべ、これって異世界漫画によくある展開っぽくないか。転生したらチートでしたみたいな。魔王なんだからチートなのが標準なんだけどさ。
「さーて、最深部はどこだったっけ」
ここ、マップが複雑なんだよな。さすがに難なく目的地まで行けるとは思えない。色んなダンジョン探索するの楽しみにしてたけど、ここだけは来たくなかったな。
でも、この遺跡のBGMは最高に神がかってた。このゲームの曲で断トツで好きかもしれない。残念ながら実際は無音なので曲が聞けないんだけどさ。
「……あれ」
入口のトラップが解かれてる。参ったな、誰かが攻略中なのか。
どうしよう。先に宝玉を持っていかれると困る。俺は元に戻れるかどうかだけ試したいだけだから、ここから持っていく気はない。先に見つけてその場で検証させてもらおう。
そうとなれば、サクッとダンジョン攻略してしまおう。
中に入り、一気にトラップだらけの道を突っ切っていく。飛べるって便利。そして魔王の力が強すぎる。腕で振り払うだけで魔力の波動を飛ばせるから飛び道具も簡単に壊せてしまう。
でもあんまり壊しすぎると遺跡ごとダメにしてしまうかもしれない。ほどほどにしておかないとな。
確かこの道を曲がって、突き当りの壁に隠し通路があったはず。その先にある罠を解除して、その罠の下にある階段を下りていく。
うん、覚えてるものだな。この先は侵入者を排除するために用意された毒沼があったはず。罠もかなり大掛かりになっていくから気を付けないと。
「……うっわぁ」
地下に進むと、一気に雰囲気変わるな。かなり怖い。
このダンジョン、本来なら仲間がいないとクリアできないんだよな。トラップの解除は一人じゃできないように出来てる。ストーリーの進行で仲間は確実に出来るから特に問題なく進めたけど、今俺が魔王じゃなかったら詰んでたぞ。
「……って、誰かいる?」
道の先に人影が見える。先に入った冒険者か。追いついちゃったみたいだな。気付かれないように先を越さないと。
どうやらトラップ解くのに苦労してる様子だし、この隙に俺は突破させてもらう。悪いな人間。これが魔王と人間の能力の差なんだ。俺もゲームやってたときは苦労したし、お前も頑張れ。
ガコン。
頭上で重たい音が響いた。
嫌な予感がする。
あの人間、まさかここのトラップ踏んだのか。
メチャクチャ覚えてるぞ、こういうダンジョンにありがちのトラップ。
天井の一部が下がり、そこから大きな岩の球体が姿を現した。そいつは真下の傾斜の上に落ちて、侵入者に向かって一気に転がっていく。ぶつかったら一巻の終わり。真後ろにそのまま落ちて毒沼の餌食だ。
くそ、何してんだよ。アイツ、まさか一人でここまで来たのか? 他に人影は見えない。そこの罠は二人いないと解けない仕組みになってるんだよアホが。
俺は空を蹴り上げ、一気に転がる岩に向かって飛んだ。
なんで魔王である俺が人間助けなきゃいけないんだよ。アホみたいだけど、目の前で死なれたら夢見が悪くなる。
今ここにいる魔王が俺で良かったな。
「っはあああああ!!」
重たい岩を蹴り飛ばし、毒沼に蹴落とした。さすがにちょっと足痛かったな。
人間に見つかる前にさっさとこの場から消えよう。俺が人間助けたなんてことがリドたちの耳に入ったら困るし。
「……イオリ」
え。
その声に、俺は坂の下で腰を抜かしてる人間に視線を向けた。
まさか一人でこのダンジョンを攻略しようとしていたバカはお前なのかよ。
「エ、エル……」
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