【BL】勇者推しの俺が何故か敵対する魔王に転生してました。

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
上 下
18 / 80
第一部

18話 「転生してから思い知る、後悔先に立たず」

しおりを挟む



「イオリは人間を襲ったりしないのか」
「しないけど……襲う理由もないし」
「そうか……じゃあ、魔王についても何か知ってるか?」

 知ってるも何も本人なんだけど。

「何かって、弱点でも探してるのかよ」
「そういうんじゃない。弱点ならわかってるし」
「え?」
「魔王を倒せるのは勇者だけ。つまり弱点は勇者、つまり俺だ。だが、俺はまだ魔王城に辿り着けるほど強くない……なんで魔王がそんな俺を野放しにしてるのかは分からないが……」

 まぁ色んな意味で魔王の弱点は勇者だよな。それは間違ってない。
 魔王が勇者に手を出さないのも、コイツが魔王城に来るのを待ってるだけだし。人間からすれば確かに不思議だろうな。
 でもクラッドだって自分から手を出したりしてないし、人間達の勝手な解釈で魔物は人を襲うって思われてるだけだ。

「俺はエルを襲う理由なんてないし、他の奴らだって似たようなものだと思うよ」
「そう、か? 魔物に襲われた人間だっている。魔物は人間を滅ぼそうと考えているんじゃないのか?」
「……少なくとも、俺はそうは思ってない」

 あまり口出ししすぎて不審に思われても嫌だし、発言は控えておかないと。
 でも、あまり魔物達を悪く思われたくもない。彼らだって自分の身を守るためだったのかもしれない。私利私欲で人間を襲うやつももしかしたらいるのかもしれないけど、人間だってそういうことする奴いるんだから、それは魔物だけに限った話じゃないだろ。魔物は駄目で人間なら許されるなんてことはない。

「人間も魔物も、そんなに変わらない……なんて言ったら勇者様は怒るのか?」
「いや。勇者としては怒るべきかもしれないけど、俺もそう思うことはあった。昔、俺のことを蔑んできた奴らのことを悪魔だと思っていたし」
「……ああ」

 そういうところは、俺と一緒だな。
 エルはそれでも、そんな悪魔みたいな人間のことも守ろうとするんだから立派だ。勇者に選ばれただけある。神様もちゃんと見てるんだな。俺のいた世界の神様は知らん顔してたみたいだけど。

「……エルは、嫌にならないのか? 勇者であること……」
「神託で選ばれたことがか? それだったら、別に。何も出来なかった俺でも誰かの役に立てるならって思うから」
「立派だな」
「そんなことない。母さんがそう言っていたから、その遺志を継いだだけだ。いつでも誰かに手を差し伸べられる優しい子になりなさいって。今がツラくても、きっとそういったことの積み重ねが、いつか自分に返ってくるからって」
「……そうか。良い母親だったんだな」
「ああ。今でも尊敬している」

 俺の母さんはどうだったかな。いじめのことバレないように家ではあまり顔を合わせないようにしてたからな。笑顔張り付けて嘘つくのがキツくて、極力話をしないようにしてたからな。俺のこと心配してくれてたのに、悪いことしたよな。父さんも休みの日は声掛けてくれたけど、適当にあしらってたし。俺、メッチャ親不孝者だったな。結局親より先に死んじゃったわけだし。
 こうして考えると、前世に後悔ばかりが募る。もっとこうしておけばよかった。ああしておけばよかった。後悔先に立たずっていうけど、転生した後にそのことに気付かされるとはな。

「俺も、親のために何かしてあげればよかったな」
「イオリの親もいないのか?」
「いや、そういうんじゃなけど……いなくなったのは俺の方っていうか、説明できないんだけど……俺は、親に自分のこと相談したりしなかった。面倒事になるのを避けて、顔を合わせないようにしてたから……」

 言ってしまえば思春期っていうのもあったんだろうけど、人に心配されることで余計に惨めになりそうで、それが嫌だったんだよな。いじめられてる自分が可哀想、みたいに思われるのが嫌だった。自分をこれ以上不幸にしたくなかった。
 本当なら相談するべきだったんだろうけど、親にこそ一番言いにくいものがある。今更後悔しても仕方ないんだけど、今更だからこそ思うこともある。

「魔物でもそういう親子関係があるんだな」
「……た、多分」
「多分ってなんだよ」

 だって俺の話は前世の話だから、この世界の魔物達のことは分からない。クラッドの記憶にも親のことはない。どうやって生まれてきたのかも覚えてないみたいだし。
 まぁクラッドは100年以上生きてるから、そんな昔のこと覚えてないんだろうな。
 でも魔物だって親となる存在がいるから生まれてくるんだよな。卵であろうと何だろうと、それを産む存在が必ずあるはず。
 でもきっと人間みたいに家族とはならないのかもしれないな。子孫繁栄のために子を残す、程度のものなんだろう。

「魔物にも色々あるんだな」
「そういうことにしておく」
「……じゃあ、イオリのことを聞いてもいいか?」
「俺の?」
「せっかく知り合ったんだし」

 俺に興味持ってどうするんだよ。
 嬉しいって思ったけど、その気持ちを俺は抑えつけた。これ以上は踏み込んだらダメだ。俺は魔物、お前は人間。慣れあうためにこうして会ってるわけじゃないんだ。

「俺のことなんか、別にいいだろ」
「そうか?」
「そんなんでお前、俺が敵になったらどうするんだよ」
「……っ!」

 エルは驚いた顔をした。なにビックリしてるんだよ。お前は俺が魔物ってこと忘れてたのか。
 俺の何気ない問いに、エルは言葉を詰まらせてる。そんな真面目な質問をしたつもりなかったのに、そんな風に悩まれると困るんだけど。

「……い、いや、そんな真面目な話じゃないから、気にするなよ」
「あ、ああ……ごめん」

 やめろやめろ。適当に流せよ。どうせお前が別の街に拠点を移したら会わなくなるんだぞ。
 頼むから、やめてくれよ。俺の剣を鈍らせるな。

「敵になったら、迷わず殺せよ」
「……イオリ」
「俺も、そうする」
「……」
「俺らがこうしてるのは、今だけだ」

 エルに言うより、自分に言い聞かせるために俺はちゃんと声にした。
 超えちゃいけない一線だけは守らないといけない。

「……そう、だな」
「……」
「イオリ」
「ん?」
「今だけは、まだいいだろ」
「今だけ、な」

 コイツが、今どう思っているのかは分からない。
 分からないけど、良くはない気がする。

 お互いに分かってるのに、なんで。

 なんで、止められないんだろう。


しおりを挟む
読んでくださってありがとうございます
感想 30

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...