1 / 80
第一部
1話 「まだ2周目クリアしていないんです」
しおりを挟む
俺には何もなかった。
全てが空っぽで、毎日が虚しくて。
学校では虐めに遭い、家では親に心配させないように笑顔張り付けて。
何も楽しくなかった。
毎日毎日、ただ同じことの繰り返し。必死に自分偽って嫌なことをやり過ごしてばかり。
一生こんな風に生きていくのかな。そう思ってた。
あの日までは。
「……新作、出てたんだ」
何となく立ち寄ったゲームショップで見つけたゲームソフト。昔人気があったゲームの続編が発売されていた。ゲームは嫌いじゃない。嫌なことも夢中になってる間は忘れられるから。
俺はそのゲームを買って、すぐにプレイした。
翌日が休みということもあって、俺は夜通しで遊んだ。ストーリーやシステムはもちろん、登場キャラクターが魅力的で続きが気になってやめられなかった。
一番惹かれたのは主人公である勇者。王道のヒーロー像だけど、何事にも一生懸命でどんな困難にも立ち向かい、必死に前を向く姿が好きだった。
カッコいい。こんな人になれたら、毎日が楽しかったのかもしれない。
今だけ。ゲームをプレイしてる間だけは、俺が勇者だ。俺が主人公になれる。彼のようになれる。
「……今日はレベル上げだけにしておこうかな」
気付けば夕方過ぎていた。
今日一日、ずっとゲームしてたな。久々に充実した一日を過ごせたかもしれない。
明日からまた学校かと思うと気分は憂鬱だけど、帰ったらまた続きが出来る。それだけが今の俺の楽しみだ。
ーーーーーーー
それから数日。ゲームはクリアした。だけど俺は周回プレイを楽しんでいた。
追加ストーリーや後日談なんかもあって毎日飽きずにプレイできてる。ノベル、コミカライズも決まっていて、明日も頑張ろうという気力に繋がってる。
今日は思い切り腹を蹴られて苦しいけど、学校にいるときだけ我慢していればいいんだ。家に帰れば、ゲームがある。勇者が待ってる。勇者が、俺の心も救ってくれてる。
俺の勇者。現実が俺を救ってくれないのなら、せめてゲームの中だけでも。
――トン
駅のホームで電車を待ってると、不意に背中を押された。
いつもなら倒れる前にとっさに足で踏ん張れたかもしれない。でも今の俺は腹の痛みでそれすら出来ずにそのまま倒れて、線路に落ちてしまった。
起き上がれない。目の前にはもう電車が来ていた。緊急停止も間に合わない。
こういうとき、世界がスローモーションになるって本当なんだな。俺を突き飛ばしたであろういじめっ子たちは俺がまさか落ちるとは思ってなかったのか顔が青ざめて慌てふためいてる。
ざまぁみろ。俺の口角は自然と上がり、この世の終わりに微笑んで見せた。
ああ、でも。
「2周目、まだクリアしてないのになぁ」
全てが空っぽで、毎日が虚しくて。
学校では虐めに遭い、家では親に心配させないように笑顔張り付けて。
何も楽しくなかった。
毎日毎日、ただ同じことの繰り返し。必死に自分偽って嫌なことをやり過ごしてばかり。
一生こんな風に生きていくのかな。そう思ってた。
あの日までは。
「……新作、出てたんだ」
何となく立ち寄ったゲームショップで見つけたゲームソフト。昔人気があったゲームの続編が発売されていた。ゲームは嫌いじゃない。嫌なことも夢中になってる間は忘れられるから。
俺はそのゲームを買って、すぐにプレイした。
翌日が休みということもあって、俺は夜通しで遊んだ。ストーリーやシステムはもちろん、登場キャラクターが魅力的で続きが気になってやめられなかった。
一番惹かれたのは主人公である勇者。王道のヒーロー像だけど、何事にも一生懸命でどんな困難にも立ち向かい、必死に前を向く姿が好きだった。
カッコいい。こんな人になれたら、毎日が楽しかったのかもしれない。
今だけ。ゲームをプレイしてる間だけは、俺が勇者だ。俺が主人公になれる。彼のようになれる。
「……今日はレベル上げだけにしておこうかな」
気付けば夕方過ぎていた。
今日一日、ずっとゲームしてたな。久々に充実した一日を過ごせたかもしれない。
明日からまた学校かと思うと気分は憂鬱だけど、帰ったらまた続きが出来る。それだけが今の俺の楽しみだ。
ーーーーーーー
それから数日。ゲームはクリアした。だけど俺は周回プレイを楽しんでいた。
追加ストーリーや後日談なんかもあって毎日飽きずにプレイできてる。ノベル、コミカライズも決まっていて、明日も頑張ろうという気力に繋がってる。
今日は思い切り腹を蹴られて苦しいけど、学校にいるときだけ我慢していればいいんだ。家に帰れば、ゲームがある。勇者が待ってる。勇者が、俺の心も救ってくれてる。
俺の勇者。現実が俺を救ってくれないのなら、せめてゲームの中だけでも。
――トン
駅のホームで電車を待ってると、不意に背中を押された。
いつもなら倒れる前にとっさに足で踏ん張れたかもしれない。でも今の俺は腹の痛みでそれすら出来ずにそのまま倒れて、線路に落ちてしまった。
起き上がれない。目の前にはもう電車が来ていた。緊急停止も間に合わない。
こういうとき、世界がスローモーションになるって本当なんだな。俺を突き飛ばしたであろういじめっ子たちは俺がまさか落ちるとは思ってなかったのか顔が青ざめて慌てふためいてる。
ざまぁみろ。俺の口角は自然と上がり、この世の終わりに微笑んで見せた。
ああ、でも。
「2周目、まだクリアしてないのになぁ」
11
読んでくださってありがとうございます
お気に入りに追加
818
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる