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1章

1章 36話「転校」

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 ガタンと椅子の倒れる音がする方へとルーフスたちは顔を向けた。
 視線の向こうには目を大きく見開き、血の気の引いた顔をするグリーゼオが立っている。その表情に、カイラスが駆け寄った。

「……ごめん、ごめんね、グリーゼオ君。君にこんな思いをさせて……」
「てん、こう? ノアが、いなくなるんですか?」

 震える声で言うグリーゼオに、ルーフスは深く頭を下げた。

「本当にすまない。ノアールのことを君に任せ過ぎてしまったと、心から反省している。君に……まだ幼い君が持つべきでない感情を、覚えさせてしまった……」
「そ、んな……そんなこと、いいんです……おれは、おれの意志で、ノアを守りたいと思ったし……自分の行動が正しくないとは思ってますけど、後悔はしてないです……」
「……それでは、駄目なんだよ。ノアールのために誰かを殺したいだなんて思ってほしくないんだ。ノアールだって、それを知ったら悲しむよ……」

 ルーフスはゆっくりと首を横に振り、グリーゼオの肩を抱き寄せた。

「妻とも話していたんだ……君の強い責任感に、我々は甘え過ぎていたんじゃないかって……だから、きっとこれは良い機会だ」
「え?」
「このままだと、グリーゼオ君もノアールも、互いに依存しすぎてしまう。こちらからノアールのことを頼んでおいて身勝手だと思うだろうが……」
「ま、待って……待ってください」
「グリーゼオ君。君は、君の生活に戻るといい」

 頭を思い切り殴られたような衝撃で、グリーゼオは呼吸の仕方を忘れそうになった。
 そんなことを言われて、はいわかりましたと二つ返事で返せるわけがない。そんな聞き分けの良い子供なんかじゃない。グリーゼオは嫌だとルーフスに言おうとした。だけど、涙が溢れて声にならなかった。

「う、ああ、うわああぁぁ!」

 グリーゼオの泣き叫ぶ声に、カイラスももらい泣きしそうになった。
 彼がいつも冷静でしっかりしているから、つい甘えてしまった。グリーゼオもノアールと同じ6歳。まだ大人に甘えていたい年頃だというのを忘れてしまっていた。

「本当にすまない……本当に……」

 もっと早く、ああしていれば、こうしていれば。そんな考えてもどうにもならない、たらればが頭の中を駆け巡る。ルーフスはグリーゼオが泣きやむまで、ずっと彼の背中をさすっていた。
 きっとすぐに納得できないだろう。それでも二人のために出来ることを、やっていかなければいけない。
 ノアールもきっと悲しむだろう。初めてできた友達を失うことになるのだから。
 正直、何が正しいのか分からない。それでも、今はこれしか方法がないとルーフスは思った。悲しみもきっと、時間が経てば忘れるだろうと、そう願うばかりだ。


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