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1章

1章 21話「休息」

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 少しだけ肩の荷が下りた。ノアールはグリーゼオの手を取って、嬉しそうに笑った。

「えへへ、これからもよろしくねゼオ」
「ああ。こちらこそ、よろしくなノア」
「あの、お父様もありがとうございます」
「あはは、お父様なんてくすぐったいねぇ。お嬢ちゃんも大変だな。俺に分かることがあれば相談に乗るよ。何だっけ、前世がどうとか? 仕事柄、古い歴史やら何やらには詳しい方だからな」

 大きな手で頭を撫でられ、ノアールは少し驚いたが自分の父に似た感覚に頼もしさを感じた。

「それと黒い炎についてだが、どっかで聞いたことがあるような気がするんだよな」
「本当ですか?」
「ああ。何で見たのか忘れちまったが……思い出したらすぐに報告するよ」
「ありがとうございます。あ、この間はお父様の本を読ませてくださってありがとうございました」
「うちにあるもので良ければ、いつでも読みにおいで。そうだ、俺のことは先生って呼んでくれていいよ。皆からもそう呼ばれているからね」
「先生……フロイズ先生!」
「おう。それじゃあ、俺は色々と報告しに行かなきゃ行けないから先に帰るわ。グリーゼオ、お前の退院は明日な」
「へーい」

 グリーゼオはヒラヒラと手を振った。
 自分の親が過保護だからか、ガイツのアッサリとした対応に終始驚かされる。
 自分の父、ルーフスだったら面会時間ギリギリまでいて、兄や医者に追い出されるまで居座っていただろう。

「なんか、ゼオのお父様って……なんて言えばいいのかな、ザックリしてると言うか、豪快というか……考古学の先生って聞いてたから、もっとこう気難しい方なのかなって思ってた」
「あー、まぁ確かに雑な人だとは思うよ。あの人の部屋、見ただろ? 本人もあんな感じなんだよ」
「へぇ。うちのお父様とは全然違うね」
「それは確かに。ノアのお父さんは典型的な女の子の父親って感じだよな。おれ、最初ちょっと怖かったし」
「アハハ。うちの父はノアールが産まれたときからそうなんだよ。僕は適当にあしらうことが多いから、あんな風に猫可愛がりされることはなくなったけどね。まぁ、だから余計にノアールのことを可愛がりたいんだろうね」

 カイラスは笑いが堪えられず、腹を抑えながら話す。
 色んな家族の形があるのは分かっているが、ここまで自分の親と違うと面白いものがある。

「でも、協力してくれるのは本当に助かるね。考古学の先生からまた違った視点で意見を頂けそうだし」
「うん。あの炎のこと聞けたら凄く助かる」
「おれの親がノアの助けになるんだったら良かったよ。でも、ぶっちゃけ期待はしすぎないでくれよ。あの人、結構興味ないこととかすぐ忘れちゃうからさ。思い出すのに時間かかる可能性めっちゃあるからね」
「全然良いよ、そんな急いでる訳じゃないし。私は、とにかく心穏やかに過ごすのが重要だからね」
「まぁ、おれも父さんが忘れないようにこまめに声掛けておくから」
「ありがとう、ゼオ」

 ふふっと笑みを零し、ノアールはグリーゼオから離れた。
 完治したとはいえ病み上がりだ。明日退院しても、まだ数日は自宅で安静にしているように言われている。カイラスはそろそろ帰ろうとノアールの手を握った。

「それじゃあ、今日は話を聞かせてくれてありがとう。また学園で会おうね」
「はい、おれの方こそありがとうございました」
「ゼオ、またね。学園で待ってるね」
「おう」

 ノアールは手を振って病室を出る。
 寂しいけれど仕方ない。ノアールは兄の手を握り返し、帰宅した。


―――
――


「じゃあ、ノアールも暫くはゆっくり体を休ませるんだよ」
「わかってます!」

 屋敷に戻り、カイラスは真っ直ぐノアールを部屋へと連れていった。
 ノアールも大きな怪我こそなかったが、膨大な魔力を消耗した。学園の方も魔物に襲われた件に関して、生徒たちはまだ少しザワついたままだ。
 ノアールに関しては見た目の変化まである。普段は誰もノアールに話しかけたりはしないが、ここまで大事になっては事件のことを根掘り葉掘り聞いてくる可能性は十分にある。
 それがノアールの精神面にどう影響するか分からない。その辺を考慮し、本人には伝えていないが、グリーゼオが復帰するタイミングで一緒に登校させようかと考えている。

「……くどいようだけど、その髪は本当に良いんだね?」
「ん? うん、平気だよ」
「そっか。ごめんね、気になっちゃって」
「大丈夫だよ。ありがとう、お兄様」

 気にしすぎてもよくない。これ以上は本人が何も言わない限り、詮索はしない方がいいだろう。カイラスはノアールの頭を撫でて部屋から離れた。
 その容姿の変化には家族みんなが心配している。両親が病室に駆け込んだとき、変わり果てた姿を見て顔を真っ青にしていた。
 無理もないだろう。穢れのない純白だった娘が、恐ろしいほど真っ黒になっていたのだから。
 まるで、娘が魔物に呪われたのではないかと思ったほど。検査して特に身体や魔力に変化は見られなかったので一旦は安心したが、時間が経過しても髪と目の色も戻ることはなかった。
 数日経てば戻るかもしれないと思っていたのに、色が薄まる様子もない。身体に影響がなかったとはいえ、今後どうなるか分からない。黒く染まったノアールを見るたびに、胸がざわついてしまう。
 だが大人が、家族がずっと不安な顔をしていたらノアールも悲しんでしまう。今できるのは、いつも通り過ごすこと。

 カイラスは心を落ち着けるために一度深い深呼吸をして、グリーゼオから聞いた話をするために教会にいる父の元へと向かった。


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