14 / 42
1章
1章 12話「儀式」
しおりを挟む一週間後。
今日は朝から教室がざわついている。誰もが浮足立つのも無理はない。この学園に入学した皆が心待ちにした日、魔法の覚醒の儀式なのだから。
「ノアール、大丈夫か?」
「私は平気だよ」
「そうか。おれたちは最後だから、しばらく時間あるな」
「そうだね。儀式ってどれくらい時間が掛かるものなんだろう」
「さすがに分かんねぇな」
先週、ノアールの魔法の話を聞いた日。ノアールが本来の覚醒の儀式がどういうものなのか見たいとお願いされ、順番も最後ということもあってグリーゼオの儀式にノアールも同席することになった。
儀式の際は放送で名を呼ばれ、学園内にある礼拝堂へと向かう。それまでは自由時間となっている。学園内であればどこにいても構わない。
二人が互いの儀式に同席することは他の生徒を混乱させないよう勿論伏せられている。グリーゼオの名前が呼ばれたときにノアールもそのまま一緒に行き、グリーゼオの儀式が終わったら放送で形だけの呼び出しをする流れになっている。
「図書室でも行くか?」
「そうだね。あそこなら人も少ないだろうし」
一緒に行くところを人に見られるわけにはいかない。なるべく人気の少ないところで順番を待とうと、二人は図書室へと向かった。
相変わらず、人の気配はない。
特に今日はみんな自分の魔力を覚醒させる大事な儀式の日。教室で今か今かと自分の名前が呼ばれるのを待っている。
「ゼオも緊張するの?」
「そりゃあな」
「私もみんなと同じが良かったな。そういうワクワク感、なくなっちゃったし」
「ワクワク……まぁそういう気持ちもなくはないけど、ちょっと怖い感もあるよ」
「怖い?」
「魔法を使いたくてこの学園に来たわけだし、この儀式もずっと楽しみにしてた。でも、自分の魔力がどれくらいなのかとか、どういう魔法を覚えるのか、とか」
「そっか。魔法の属性も、儀式で分かるんだもんね」
魔法属性。これは先天的に決まっている魔力のこと。ノアールは火の魔力資質を持っており、それ以外の属性魔法は基本的に使えない。誰でも自由に扱える魔法は無属性と括られ、例を挙げると空を飛んだり物を動かしたりする魔法を指す。
「そういえば、お前が覚醒した時はどんなだった?」
「私? 本当に急だったからビックリしたよ。前世のことを初めて夢で見て、飛び起きた直後だった。体からぶわーって赤い湯気みたいなのが溢れてきてね、もう訳分からなくて怖かったよ」
「へぇ。赤……火の属性だからか。それにしても五大元素の魔法ってレアなんだよな。すげーな」
「まだちゃんと魔法使ったことないから凄いのかどうかわからないけど……でも旅に出たときは役に立ちそうだよね」
「まぁ……火を起こすのは楽になるな」
魔法の使い道がそれだけなのだろうかとグリーゼオは少しだけ頭を抱えたくなった。
ノアールは魔力が高いと聞いた。これから先、たくさん魔法を覚えていけば優秀な魔法使いにだってなれる。
だが、ノアールはそんなことに目を向けたりはしないだろう。今の彼女の目的は前世の自分を探すこと。それに役立つ魔法以外に興味がない。
ノアールらしいと言えばノアールらしいが、第三者目線からすれば勿体ないと感じてしまう。
「ゼオはなんだろうね」
「おれ、かぁ……親の属性も多少は影響するんだっけ?」
「遺伝することもあるって確か習ったね。私は全然違うけど」
「へぇ?」
「お父様の属性は重力、お母様は癒し。それとお兄様は木属性」
「カイラス先輩もレア魔法なのか」
「そうだね。ああ、だからかな、薬学に興味を持つようになったの」
なるほど、とグリーゼオは軽く頭を振った。
確かに覚醒した魔法属性で進路を決める人は少なくない。グリーゼオは実父の魔法属性が「知」だったことを思い出す。一度見聞きしたことや知識を忘れない特殊な魔法属性。昔から祖父の影響で古い遺跡などが好きだったこともあり、魔法が覚醒してからはずっと考古学を学んできたといつだったか話してくれた。
「私の場合、火だからなぁ。特定の職業向きじゃないし」
「確かに攻撃系の魔法だもんな。でもお前、騎士とか戦闘職に興味ないだろ」
「ないね。旅に出てる間に身を守る魔法さえ使えればいいくらい」
「ま、将来なんてどうなるか分からないし。おれら、まだガキだし。いくらでも夢見ていいんじゃない」
「ゼオは何か考えてたりするの? お父様のお仕事に興味持ったりとかは?」
「いや、おれは特に考えてないな。魔法学校に入ろうと思ったのもあくまで将来の選択肢を増やしておこうかなって程度だし」
魔力を覚醒させたからといって誰もが魔法を使う職に就くわけじゃない。中には途中から別の学校に転校する子もいる。
誰もが魔法使いになれるわけじゃない。この覚醒の儀式を終えた後、自身の魔力量が少なくて辞める子も少なくない。
「魔法学校の初等部はお試しみたいなところあるらしいからな」
「そうなの?」
「ああ。初等部で基本を習って、子供が魔法に興味持てなかったり才能がないって判断したら辞めさせちゃうみたいな話は聞くぞ」
「才能……って言葉は嫌いだなぁ」
「まぁまぁ、ここは特に名門だからな。学費云々の話もあるし、お前みたいな貴族ばかりじゃないって話だよ」
そういうものかと、ノアールは少し納得いかない顔で頷いた。
ノアール自身も魔法にはそこまで興味はなかった。兄が通っているから自分も同じところに行くんだろうな程度にしか考えていなかった。
それが入学前に魔法が目覚めてしまい、前世を思い出すという予想もしない事態が起きた。もう本人の意思関係なく魔法をきちんと学ばなくてはいけなくなってしまった。ノアール自身もちゃんと魔法を覚えたいという気持ちが芽生えた。
グリーゼオが言ったように、将来はどうなるか分からないもの。ノアールは普段全く話をしない子たちにも色んな考えがあってこの学園に通っているんだなと思った。
「初等部3組、グリーゼオ・フロイズ君。礼拝堂までお越しください。繰り返します……」
放送が聞こえ、グリーゼオは緊張しているのか深めに深呼吸した。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
二人は椅子から立ち上がり、礼拝堂へと向かった。
隣を歩くグリーゼオの顔は強張っている。同じ緊張感を味わうことが出来ないノアールは、彼の気持ちを分かってあげられないことに少しだけ寂しさを感じた。
なんて声を掛けていいのかも分からず、二人は礼拝堂に着くまで黙ったままだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる