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第32話 神様は嫁がいないと寂しい

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「それじゃあ、行ってきますね」
「うん。森から出たらタブレットから通話かけてね。ちゃんとカメラ通話だよ」
「わかってますって!」
「知らない人に声掛けられても付いていかないようにね!」
「僕、子供じゃないですから!」

 翌日。潮くんは早朝からテキパキと支度を済ませて出掛ける準備万端だ。
 なんか今、初めてのお使いで子供を送り出すお父さんお母さんの気分。

「アマネ様こそ、大人しくお留守番しててくださいね」
「はぁい」
「周囲の様子を軽く見てきたら戻ってきますから」
「うん……」

 潮くんは俺に軽くキスをして森を出ていった。
 行ってきますのキスとか教えてないのに、自然とそういうことしちゃうの最高過ぎませんか。

 俺は寂しさを抑えて、鴉天狗を呼んだ。
 昨日と同じようにほんの数秒で結界の外から手を振って俺に入っていいか許可を得てる。
 俺がどうぞと手招きすると、昨日と同じ子がやってきた。
 なんか嫁が出ていってすぐに別の女の子を呼ぶって、なんか浮気してるみたいだな。全然そんなことないんですけどね。

「今、眷属の子が外に出ていかれましたね」
「うん。俺の代わりに周囲探索をお願いしたんだ」
「昨日も思ったんですけど、あの眷属は随分と強い力を持ってますね」
「ああ、俺の龍玉を持ってるから」
「え」
「え?」

 あれ、なんかマズかったかな。あ、俺の龍玉を持ってるから他の土地に干渉しちゃうかな。でも龍玉は俺の心臓だけど力そのものを渡したわけじゃないから大丈夫だよね。

「あのお方は、眷属ですよね?」
「眷属であり、俺の神子であり、嫁です」
「嫁?」
「伴侶」
「……人間の男の子をですか?」
「なんかマズい?」
「いえ、マズくはないけど珍しいことなので」
「やっぱりそうなんだ。潮くんは元々そこの村から出された生贄だったんだけど、俺が嫁にしちゃったの」
「……なんか面倒なのでその辺は聞かなかったことにしますね。それで、本日はどのような御用でしょうか?」

 流されちゃった。でもまぁ珍しいってだけで前例がないわけじゃないんだな。この世界での人間と神様ってわりと距離感近いもんな。

「あのさ。これ、俺が作ったパソコン……えっと、通信装置とでも言えばいいのかな。これを他の神様との連絡手段に使えないかなって」
「通信装置、ですか? この箱のようなものが?」
「そう。えっと、別の世界の技術を参考にして作ったんだ。神力にだけ反応して、えーっと……念話の凄いバージョンっていうと分かるのかな。ここに相手の顔が映るんだ。上手くいけば、複数人で会話が出来ちゃうんだ」
「へぇ。水龍様は凄いものを思いつきますね」
「それで、誰かこれを使ってくれそうな神様っているかな。こんな事態だから、他の神様と連携を取れた方が良いでしょ? 鴉天狗たちにも限界があるだろうし」
「確かに、それが可能なら私たちも助かりますね。これ、我々鴉天狗たちでも使えますか?」
「出来るよ。これは神力に反応させてるけど、設定を弄れば他の人にも扱える。鴉天狗同士の伝達速度が上がれば俺達も助かるし」

 俺はパソコンを起動して、設定を変えた。
 鴉天狗の力は、妖力だ。それをこのパソコンに覚えさせればいい。彼らの力を数値化して、それらを送受信できるようにしてやれば彼ら専用の通信装置の完成だ。

「君達にはスマホサイズがいいか。で、これを量産させれば……」

 俺が持ってたスマホと全く同じ機種の複製。そういえば、俺が死んだあの日はスマホを最新機種に買い替えた帰りだったんだよな。
 まさか帰り道に子供助けて死んじゃうとは思わなかったけど、まぁ今の神様生活も悪くはない。

「おお、凄いです! これをどうやって使えばいいのでしょうか?」
「あのね、この画面をタッチして……」

 それから俺は、潮くんから連絡があるまで鴉天狗にスマホの使い方を教えてあげた。
 ある意味これは文明開化かな。まぁ残念ながら人間には全く関係ない話なんだけどね。

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