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第31話 ゆびきりげんまん
しおりを挟む潮くんが来てから、一日一日、過ぎていく時間をしっかり意識してる気がする。
今までは湖の中で眠っていることが多かったから、起きたら数年経ってるのが当たり前だったし。
俺はタブレットで勉強する潮くんをこっそり写真に撮りながら、そんなことを考えていた。
朝起きて、夜になったら寝るっていう人間らしい生活をまた送るとは思わなかったな。
まぁ潮くんの訓練とかそういうのがあるせいだと思うけど。何もない生活のままだったら、潮くんも寝る時間が増えていたかもしれない。段々と俺の生活リズムに合わせるようになったと思うし。
だって神様の生活は人間には本当に退屈だから。
だからといって、暇をなくしてくれたこの事態には一ミリも感謝できないんだけど。
「あーあ、体が二つあれば遠くにも行けたのに」
「え。アマネ様、分裂するんですか?」
「分裂というか、分身を作るのは出来るけどそれだと力も半分になっちゃうからなぁ」
「へぇ。神様は本当に何でも出来ますね」
「何でも出来る力があっても、あまり役に立つ場面がないんだよね」
ちょっとお出かけする程度だったら分身体でも大丈夫だろうけど、他の神がいる土地には入れない。神力が土地に干渉してしまうから。
それに弱体化した状態で何かあったら困るし。
「……偵察とか、そういうのに使えればいいんだけどね。俺が見える範囲も限られるし」
「そうですね……僕が単体で行くのは無理ですか?」
「え、潮くん一人に!? それは、眷属である君なら他の土地に行っても問題はないけど……でも危ないからヤダ!」
「でも、待ってるだけじゃ駄目だと思います」
「それも分かってるけど、俺の目の届かない場所に行かれるのも嫌だ!」
「それなら、これがあるじゃないですか」
そう言って潮くんはタブレットを指さした。
君は本当に頭の良い子だな。すぐにそいつの利用価値に気付くとは。
「遠く離れても連絡が取れるか実験も出来ますよ」
「確かにテストはしたいけど……うーん……」
こういう時、外に出られない俺は何も出来ない。
潮くんが、というか眷属が神様の代わりに外に出るのはむしろ当たり前の行動なんだけど。というか本来はそういう役割を持って使役するものなんだけど。
でも潮くんはただの眷属じゃない。俺の嫁だ。
てゆうか、俺が行ってほしくない。寂しい。やだ。
「アマネ様。僕のこと信用してくださらないのですか?」
「違う! 違うの! 俺が寂しいだけなんです!」
「そんな子供みたいなこと仰らないでください。ちょっと周囲を見てくるだけですから」
「で、でも……」
「すぐ帰ってきますから、ね?」
俺、メチャクチャカッコ悪いな。
ただの駄々っ子じゃん。一番危ないのは外に出る潮くんの方なのに。
「……わかった。でも、タブレットは付けっぱなしにしててね。充電が切れる心配はないから」
「はい」
「あまり遠くには行かないでね。何かあったらすぐ帰ってくるんだよ」
「はい。わかってます」
「もしあの子の気配を感じたり、あの子自身が目の前に現れたりしたら俺に報告すること。一人で戦おうとしないこと」
「はい。約束します」
俺は小指を突き立てた。
潮くんは小さく笑って、俺の小指に自身の小指を絡めてくれた。子供っぽいかもしれないけど、立派な誓いの儀式だ。
「指切げんまん嘘ついたら針千本飲ます」
ゆーびきった。
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