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第27話 もう少しコミュ力を付けようかと思いました

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 思ってたより、向こうの動きがない。
 やっぱり回復に時間かかってるのかな。かなり消耗してたみたいだし。

「……でも、油断したところで来るかもしれないもんね」
「どうしたんですか?」

 俺がボソッと呟くと、訓練中の潮くんが反応した。
 ヤバい、声に出てた。独り言恥ずかしい。

「ううん。あれから何事もないなーって」
「僕たちが焦っても仕方ないですよ。今は時間が許す限り、鍛錬です!」

 うちの嫁は逞しいな。もっと惚れちゃう。
 でも、周囲の様子が伺えないのは此方としてもデメリットだ。
 もう得手不得手とか、とやかく言ってる場合じゃない。

「よし。カラスを呼ぼう」
「カラス?」
「正しくは鴉天狗だね。彼らは神々の間での情報屋なんだよ。俺は引きこもりだったしコミュ障だから利用したことないんだけど……そうも言ってられないし」

 俺は指笛を鳴らした。
 呼び方は知ってるけど、実際に使ったことはないんだよね。合ってるかな。ちゃんと呼べるのかな。
 どんな奴なのかも分からないから、ちょっと不安。

「こーんにーちわー。この結界は通っても良いのでしょーかー」

 指笛を鳴らして、ほんの数秒。空の上から声が聞こえ、俺は上を向いた。
 黒い羽根をパタパタとしながら、等身の小さい女の子が手を振っていた。あれが、鴉天狗か。鼻は長くないんだな。
 そんなことを思いながら、俺は結界を通ることを許可した。

「いやぁーまさか水龍様に呼ばれる日が来るとは思いませんでした! てゆうかご無事だったのですね。貴方様が神の座に付いてから何の音沙汰もないから生きてるのか死んでるのか分かりませんでしたよー」
「は、はぁ……」

 少女は笑いながら喋る。
 格好は俺の元いた世界でもよく見る下駄を履いた天狗の格好だ。でも、なんか普通の人間の少女よりも等身が低い。二頭身、いや三等身くらいかな。こじんまりしてる。

「それで、そんな引きこもり神様が今回はなんの御用で? やっぱり最近噂の神殺しのことですか?」
「知ってるの?」
「当たり前じゃないですか。土地に属した神様はまだ狙われていませんが、野良でフラフラしてる神様は何人か殺されてしまいました。さすがに土地神様は信仰の力もあってお強いですからね」
「俺、その子に腕吹っ飛ばされたんだけど……」
「おや! お会いになったんですか」

 俺は鴉天狗に少年にあった時のことを話した。
 突然現れ、攻撃してきたこと。呪いの力を持っていたこと。神を殺して力を奪ったと言っていたこと。
 鴉天狗は話を聞き、腕を組んでうーんと唸った。

「変な話ですね。人間が神の力を持って平気なはずがないし、本来は譲渡することでしか得ることのない神力と、神力と相容れない呪いの力が混在してるなんて……」
「他の神様はどうしてるの?」
「土地神様達は結界を強化しておりますよ。とにかく近付けさせないように、と」
「そっか……」
「それから、土地神様を守るために妖怪などの異形たちも動き出してます。土地が枯れたら彼らも居場所を失いますからね」
「なるほど……そうだよね、普通はその土地にいるよね」
「そうですよ。こんな広い森に獣の一匹もいない土地の方が変ですよー」

 うっ。そうだよね、おかしいよね。
 俺、獣とか妖怪とか関わるの怖くて土地に寄せ付けないようにしてたもんな。
 こういう時、一緒に土地を守ろうとしてくれる仲間が少ないのはデメリットになるな。他にも誰かいてくれたら潮くんの負担も減っただろうに。俺のバカ。人見知り。

「とにかく、今後は水龍様もマメに連絡を取り合ってくださいね。情報交換は大事ですよ!」
「わ、わかりました……」
「他の土地神様にも神殺しの少年の話は伝えておきます。こちらでも何か動きがあったらお知らせしますので!」
「うん。宜しく頼むよ」
「はいはい! では、わたしはこの辺で失礼しまーす」

 鴉天狗はペコッと頭を下げて、空へ飛んでいった。
 呼んでよかった。他の神様の情報を得ることが出来たし。
 それにしても、やっぱりあの子はもう他の神様を既に殺していたのか。

「……止められるかな、あの子を」
「大丈夫ですよ。アマネ様なら、きっと」
「だと、いいんだけどね」

 潮くんがそっと俺の手を握ってくれた。
 うん。俺たち二人なら、きっと大丈夫。


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