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第26話 嫁に可愛いこと言わせたい

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 空も暗くなり、俺達は湖の中へと潜った。
 俺も元の姿に戻って、水底で体を丸くする。しっかり英気を養わないと、いざって時に動けなくなっちゃうからね。

「潮くんもちゃんと休んでね」
「はい、アマネ様」

 潮くんは俺の体に寄り添って寝そべる。
 水の中にも慣れたかな。水圧や抵抗がないとはいえ、人間には動きにくいだろうに。
 社に寝かせてあげたいけど、俺は龍の姿の方が楽だしな。別々に寝ればいいんじゃないかって思わなくもないけど、今はいつあの子が現れるか分からないから、常に傍にいて欲しい。
 俺の目の届かないところに居てほしくない。潮くんのみに何かあったらと思うだけで、怖い。

「……アマネ様?」
「どうしたの? 寝れない?」
「いえ……何か、お悩みですか?」
「え……」

 あ、そっか。潮くんには龍玉を通して俺の心の揺らぎも分かっちゃうんだ。心配かけちゃって申し訳ないな。

「……何でもないよ。ただ、もし君に何かあったらって考えちゃっていたんだ」
「僕に、ですか?」
「そう。負ける気はないけど、もしもを考えちゃって……」
「アマネ様……それは、僕だって同じですよ。アマネ様の腕がなくなったのを見て、本当に怖かったんですから……」
「そうだね。ゴメンね、怖い思いをさせて」

 潮くんはその時のことを思い出したのか、泣きそうな顔で俺の体にしがみついた。

「……僕は、絶対に死にません。僕が死んだら、アマネ様も消えてしまう……そんなの、絶対に嫌です」
「俺もだよ。潮くんと共に生きたいと願って龍玉を渡したんだ。こんな形で消えるのは、嫌だ」
「…………アマネ様。もし、アマネ様が亡くなってしまった場合も、僕は一緒に死ねますか?」
「え?」
「少し、気になってしまって……」

 勘の良い子だな。
 確かに俺は潮くんに龍玉を渡すときに君が死んだら俺も死ぬって言った。
 俺が死んだとき君が死ぬとは言ってない。
 俺が死んでも、潮くんは生きる。彼の中の龍玉が消えるだけだ。
 あの時はこんな状況になるとは思わなかったし、寿命も俺の方が長いから特に気にしてなかった。

「やっぱり、そうなんですね」
「ごめんね、言わなかったのはちょっとズルかったかな」
「いえ。僕のことを思ってのことですよね。でも、そんなの嫌ですよ。僕だけ生きても、意味がないんです」
「潮くん……そうだね。俺も君を一人ぼっちにさせたくないよ」

 共に生きようって言ったんだもんね。
 まぁ俺も死ぬ気はないよ。君を守って死ぬとか、そういうカッコいいことしようとは思わない。そもそも俺がいなくなったら土地も枯れちゃうし。
 俺は神様として、ここの土地神として、絶対に負けちゃいけないんだ。

「可愛い嫁を、未亡人になんかさせたくないもんね」
「そうですよ。添い遂げてください、旦那様」
「あっ、それいい。もう一回言って?」
「え? だ、旦那様?」
「あーかわいい! ちょーかわいい!」
「え、ええ?」
「ダーリンって言ってみて」
「だ、だーりん?」
「かーわーいーいー」

 ヤル気充電しました。
 俺もう何が来ても負けないです。

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