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第17話 若いっていいな

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「それじゃあ、まずは俺がやってみるね」
「はい!」

 俺は湖の上に立って、潮くんに手を振った。
 見取り稽古ってのもあるし、百聞は一見にしかずともいうし。
 神の力が必要な時なんてそうあるものではないけど、自分の力をコントロールするのは大事だ。

 俺は湖の水を浮かせ、水芸のように空中でふわふわさせた。
 この世界に神として生まれた時から、空気と同じくらい水は身近なものだった。
 水龍なんだから当然だけど。
 その俺の力を潮くんも持っているから、慣れればこれくらいはできるようになると思うんだよね。

「凄い……美しいです、アマネ様!」
「そんなことないよ。それより、どう? 潮くんの中でイメージできた?」
「今のアマネ様を頭の中に想像して、やってみればいいんですよね」

 潮くんは深呼吸して、水に向かって手を伸ばす。
 見てるだけで分かる。集中力が凄い。彼の中の気が高まってる。
 若いっていいな。何でもすぐに吸収しちゃうんだから。

 水面が揺れ、小さな水の塊が一つ宙に浮く。
 それを見て、潮くんはピョンピョンと跳ねて嬉しそうに笑った。

「見てください! 出来ました!」
「うん、凄いよ潮くん!」
「アマネ様の教え方が良いおかげです! 何となく感覚が掴めた気がします!」
「それは良かった。この調子で操れる水の量を増やしたり、水の形を変えてみたりしてみよう」
「はい!」

 この様子ならきっとあっという間に上達するんだろうな。
 潮くんは飲み込みも早いし、頭も固くない。だから俺の言葉を素直に聞き入れてくれるし、見たものを即座に吸収していく。
 あとは自分の中にある神力をコントロール出来れば、もう完璧だ。

「あ、そうだ。今はまだ無理かもしれないけど、その服も神力で作ったものだから着脱も簡単に出来るよ」
「さっきアマネ様が着せてくださったように、ですか?」
「そうそう。着物とかって着るの大変でしょ? その辺もまた今度教えるね」
「はい。ありがとうございます」

 まぁ服はその時の雰囲気次第で自分で脱いだりするけどね。何でいうか、気分だよね。
 そういう雰囲気のときに乱れた服とかドキドキしちゃうし。むしろ潮くんの服は俺が脱がせたい。

「アマネ様? 顔が赤いですよ?」
「え、そう!?」
「はい。大丈夫ですか?」
「へ、平気平気! 今日はちょっと暖かいね!」
「はぁ……」

 俺は湖の上を歩いて、地面のある場所へと戻った。
 いちいち顔に出るの恥ずかしいな。潮くんにスケベだと思われたくないし。
 まぁ、どっちかっていうと俺はムッツリな方だけどさ。

「ちょっと休憩しようか。お茶飲む?」
「お茶、があるんですか?」
「そりゃ神様だもん。お茶くらいパパっと出せますよ」

 俺はパンパンと手を叩いて、お盆とお茶セット一式を出した。
 神力って、名前が違うだけで魔法みたいなものだな。
 俺は地面に座り、熱々のお茶を湯のみに注いだ。

「あ、それくらい僕がやりますよ」
「まぁまぁ、いいからいいから」

 どちらかと言えば珈琲派なんだけど、この世界には無いものだから仕方ない。
 神様パワーで作れるかもしれないけど、試したことないな。今度やってみよ。

「潮くん、甘いもの好き?」
「は、はい。大好きです」

 洋菓子とか出したら喜ぶかな。
 マカロンとか可愛いの似合いそう。


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