上 下
9 / 37

第9話 二人だけの結婚式

しおりを挟む


「とは言っても、結婚式なんて出来ないしなぁ」
「神様との結婚は何か特別なことが必要なのですか?」
「うーん……こういうのはその土地や宗教によって変わっていくものだから、一概には言えないけど……俺の場合は特に人間と交流もしてないから、大層なものはしなくてもいいかなぁ」
「なるほど」
「でも、俺も結婚願望が欠片もなかったわけじゃないし、それっぽいことはしたいかな」

 村の人からすれば潮くんは神の贄に出された存在。さすがに結婚式するから来てくださいなんて言えない。
 だからせめて、俺に出来ること。俺が潮くんに差し出せるものをあげよう。

「潮くん、乗って」
「え?は、はい」

 俺は潮くんを頭に乗せて、一気に水面へと上がった。
 外に出るのと同時に人間の姿に変化させて、社の前へ降り立つ。

「アマネ様……?」
「二人だけで、結婚式をしよう」
「僕と、アマネ様の?」
「うん」

 俺は目を閉じて、体の中にある宝玉を取り出した。
 胸元から淡い光を放って浮き上がったそれは龍玉とも言われる宝石。龍の心臓でもある。
 今俺が彼に渡せるものなんて、これくらいしかない。

「指輪の代わりって訳でもないけど、これを受け取ってほしいんだ」
「……綺麗。これは?」
「龍玉だよ」
「りゅう、ぎょく……って、龍の魂じゃないですか!? 駄目ですよ、そんな大事なもの!」
「うん。でも、俺が持ってる中で一番高価なものだし……それに、潮くんがこれを持っていてくれたら、君の身に何かあっても俺がすぐに駆け付けられる。それは俺の一部だし、運命を共にするって意味でも、これが一番相応しいのかなって……」
「運命を、共に?」
「君が死ぬときは、俺も死ぬ。運命共同体、みたいな?」

 俺が笑ってそう言うと、潮くんは何も言わずに泣き出してしまった。
 マズい。俺、何か失敗したのかも。人にプレゼントなんかしたことなかったから、感覚がズレていたのかも。
 てゆうか、いきなり宝石は重たい? 最初は花とかアクセサリーとかそういうものからスタートするべきだった?
 冷静に考えてみればそうだよね。いきなり俺の命あげますとか重たいとか言う以前にドン引きだよね。
 結婚できると思って舞い上がっちゃった。
 どうしよう。潮くん泣き止まないし。

「あ、ああ、あ、あの、嫌なら別の物を用意するよ?」
「っいえ! いえ、嫌なんてことないです……嬉しいです。僕、ずっと水神様に憧れて、お慕いしていて、もう一度貴方に会いたいと、どんな形になってもいいから会いたいと思って、村の不作が続いた時、これはチャンスだと思ったんです。一目でいい。貴方に会って、神様の血肉となれれば、ずっと一緒にいられるんだと……そう思って、生贄になると村長に言ったんです」

 思わず感動して泣きそうになったけど、この子の思考って結構危ういな。
 こういうのメンヘラって言うんだっけ。それともヤンデレ? それもなんか違うかな。依存とでも言えばいいのかな。
 神様に食べられたいと望むのは普通の恋愛感情を通り越してそうだよね。

「食べてもらうことは出来ませんでしたが、結果として水神様の、アマネ様のおそばにいることが出来て、貴方様に抱かれることが出来て、伴侶としていただける。これ以上の幸せなどありません……」

 うん。可愛いから、いっか。
 だってもうこの子は俺の嫁だし。俺だけの嫁だし。もしこれが人間同士、元の世界の俺だったらちょっと怖かったかもしれないけど、俺いま神様だし。
 こんなに可愛くて魂も綺麗で良い子なら喜んで娶ります。

「それじゃあ、目を閉じて?」
「はい……」

 俺は龍玉を彼の胸に添えた。
 龍玉は青い光を放ち、潮くんの胸の中へと消えていった。
 彼と俺の心臓が繋がった感覚。潮くんの鼓動が、直接伝わる。
 これで俺達は一心同体。

「……胸が、暖かいです。アマネ様の鼓動を感じます」
「俺もだよ」
「アマネ様。これからもずっと、お慕い申し上げます。これから先も、ずっとずっと……」
「俺も、潮くんのことをずっと愛していくよ。この胸の灯火が消えるその瞬間まで……」

 まさに、死が二人を分かつまで。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

こんな異世界望んでません!

アオネコさん
BL
突然異世界に飛ばされてしまった高校生の黒石勇人(くろいしゆうと) ハーレムでキャッキャウフフを目指す勇人だったがこの世界はそんな世界では無かった…(ホラーではありません) 現在不定期更新になっています。(new) 主人公総受けです 色んな攻め要員います 人外いますし人の形してない攻め要員もいます 変態注意報が発令されてます BLですがファンタジー色強めです 女性は少ないですが出てくると思います 注)性描写などのある話には☆マークを付けます 無理矢理などの描写あり 男性の妊娠表現などあるかも グロ表記あり 奴隷表記あり 四肢切断表現あり 内容変更有り 作者は文才をどこかに置いてきてしまったのであしからず…現在捜索中です 誤字脱字など見かけましたら作者にお伝えくださいませ…お願いします 2023.色々修正中

弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです

BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

贄婿ライフを満喫しようとしたら、溺愛ルートに入りました?!

深凪雪花
BL
 オークとエルフの間に生まれたハーフの妖魔エリューゲンは、成人して早々に『絶倫王』と呼ばれるガーネリア国王アウグネストの夜伽専門の側婿として後宮入りすることになる。  意に沿わぬ婚姻だが、オークの血筋である強い性欲に悩まされているエリューゲンは、前向きに贄婿ライフを満喫しようとする。  ただの性欲処理係として婿入りしたはずだったのに、なぜか溺愛ルートに入ってしまい……? ※★は性描写ありです。 ※他サイトにも掲載しています。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

処理中です...