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第6話 ありがとう、さようなら
しおりを挟む俺は身なりを整えて、眠る潮くんを抱きかかえて社の外に出た。
空を見ると、まだ朝日が昇る前みたいだ。
村の方も静まっている。今のうちに彼を帰してあげよう。
この子のおかげで随分回復できた。
温存しながら使っていけば、少なくとも潮くんが生きてる間は村を守れる。
彼に貰った力だ。彼が生きてる間はちゃんと守りたい。
村に着き、近くの家の前に潮くんを置いた。
目を覚ました時にはもう俺のことも忘れてるはず。
でも、生贄を返したなんて村の人はどう思うんだろ。ちゃんと雨を降らせれば大丈夫だよね。
みんなが起きた頃に降らせるようにしようかな。
俺は最後に彼の頭をそっと撫でて、その場を離れた。
森に戻り、俺は湖の中に戻った。
人間から元の龍の姿に戻し、また水底に引き篭る。
「……ふぅ」
なんか、神様になってこんなドキドキ展開があるとは思わなかったな。
潮くん、可愛くてとても良い子だった。俺も覚えていないような些細な出来事をずっと大切に思い続けてくれて、俺のために身を捧げてくれた。
また雨が降れば、また村に実りが戻る。そうなればきっと村の人が供物をくれるはず。
そうすれば、少しは信仰心も戻るかもしれないし。
「……潮くん」
駄目だ。彼のことが頭から離れない。
だってあんなに綺麗な心に触れたんだもん。そりゃ気になっちゃうよ。
初エッチも経験しちゃったし。
メチャクチャ気持ちよかったし。
人間だった時の俺は恋人なんて出来やしないと諦めていたし、風俗とかそういうのはなんか怖くて行けなかったけど、まさか神様になってから経験しちゃうなんて思わないよね。
この一度の出来事だけで神様になって良かったって思えちゃうよ。最高だったよ。
そういえば、彼は親に捨てられたって言ってたっけ。
どの土地から来た子なんだろ。なにか理由があったのかな。
何となく思い出してきたけど、確かに小さい子を村に案内した記憶がないこともない。
あの時は普通に迷子だと思ってたし、なんの迷いもなくトウセの村の子だと信じ込んでいたからなぁ。
てゆうか、ここは一応俺の住む湖のある森。
神様の住まう森として通ってるはず。その森に捨てるってことは、元から彼は生贄だった可能性もあるんじゃないのか。
俺の管轄はこの森周辺なんだけど、一番近いところがトウセの村。少し離れた場所に小さな町もある。もしかしたら、そこの子なのかな。
あの町は少し前から文明も進み始めてて神様の力なんて信じていない人が多いから、俺もあまり気にしないことにしちゃったんだよね。
人が人だけの力で生きていけるなら、その方がいいし。神頼りなんてしない方がいい。
だって神様の力なんて、本当に万能じゃない。色々と制限もある。
っと。そろそろ雨も降り始めたかな。
潮くん、もう起きたかな。
貴重な経験をありがとう。
どうか、幸せになって。
応援ありがとうございます!
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