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自動式の打ち込み人形を前に右手を構え、左手を右手首に添える。
ルイカに言われるがまま魔法を思い浮かべるものの、上手くいかない。
もちろん、最初から全てが上手くいくなんて思ってもいない。
この世界に来て、初めて魔法を使った後この世界の住民にバレるのを恐れて自分自身でチカラを封印してしまったのが今になると悪かった。
全くのゼロの状態で魔法を使おうとしたところで、魔法が発動するわけない。
初めて使った時は半信半疑の分もあったから何となく使えてしまった。だけど、今は違う。魔法の存在を知ったことで私の思考は魔法を認識しようとしなくなってしまった。
魔法という非科学的なモノを目の前にして、目を逸らしているだけというのは分かる。だからこそ、理解したくないのだ。
それが魔法習得の障害になっているのも十分理解している。
だが。
「これをこうして……」
「??」
説明を受けても全く分からない。
魔法理論は何となく分かった。いざ実行しようとしてもイメージが思うように構築出来ない。魔法は理論――座学で知識を身に付け、実践で知識とイメージ像を構築して発動させる。勿論、理論だけで魔法を発動させることも、理論を学ばずにイメージ像のみで魔法を発動出来る場合もある。言霊は後者に当たり、言霊の場合術者の想像力がキーポイントになってくる。
となれば、私は妄想が人より豊かだったということになる。結構凹む事案だが仕方ない。妄想が豊かであれば、魔法に有利なのだから。
「あーまず風系を習得しようとしたのがいけなかったのかなぁ……イメージしやすいと思ったんだけど……やっぱりカレンは言霊主体なのかなぁ……」
ブツブツ呟きつつ、ルイカは考え込んでしまった。
魔法が発動出来ない理由を私なりに考えてみた。
一つは私が理論も何も思い浮かべずに魔法を発動させようとしていること。
一つは私が魔法を発動したくないと思っていること。
ルイカの言うことが正しいとすれば――正しいのだろうけども、私の言霊のチカラが強いというなら、私が発動したくないと思えば思うほど魔法はいつまで経っても発動しない。
私は確認していた。
私の言葉にチカラが宿っているとしたら。
私が使いたくない、と言い続ければ、魔法は発動しない。
解除、と一言呟いた途端、魔法が使えるとは思わないが。一人きりになった時に試してみればいい。解除して、解除出来たらまた魔法を使えないように自分に暗示を掛けてしまえばいいのだ。
悪あがきも甚だしいが私は魔法を使いたくないのだ。
「カレン、何か呪文みたいなものを呟きながら魔法を発動してみて」
普通の人ならば、イメージして利き手を差し出せば発動するという。目の前の人が手を差し出しただけで魔法を使ってくるものだから、一般人を前にした魔法使用の際には必ず杖を使用することと規則が定められた。
杖は警告の役割を果たすものとして、魔法を使う者全てに着用が義務付けられている。
初心者は自分にあった杖を持っていないので、原則的に屋外での魔法の使用は禁じられている。杖は魔法補助の役割も担っているため、杖を持たずに魔法を使用するということは術者本人が持つチカラのみの発動になる。術者個人の能力を国は把握しておく必要があるため、素手での魔法発動が最低条件なのだ。
魔法発動はイメージと理論が全てと魔法実習室へやってきたルイカはそう言った。
言葉――呪文もまた、魔法発動のための補助でしかない。ただし、言霊と呼ばれるチカラを持った人は除く、だ。ルイカは私の言霊のチカラを補助として魔法を発動出来るのではと考えたようだ。
ふぅ、と溜息を一つ吐き、私は再び右手を前に構えた。
途端、動き出す自動式人形。ジグザグに動く自動人形を壊せば次の段階に移る。いつまで魔法実習をするのか分からないが、昼前には終わるだろう。
「切り裂け」
「…………」
静寂。
イメージもしていない何も考えてない状態で、人形が切り裂かれるはずもない。
ほら、暗示はまだ継続している。
まだ誤魔化せる。私は魔法が使えない、と。
だが。
――ごとり。
鈍い音を立てて、人形の胴体が縦半分に分かれ、左右それぞれに転がった。
「え?」
「―――っ?!」
ルイカのまんまるの大きな瞳が更に大きくなる。
私は咄嗟に自分の口を押さえた。たった四文字で縦半分に裂かれてしまった人形。
何も、何も人形が切り裂かれるイメージを一つもしていない。
これは、魔法じゃない。
これは、なんだ。
「これが……言霊のチカラ……初めて見るけど、結構エグいわね」
ルイカはエグいの一言で片付けてしまったが、非常にショッキングな出来事だ。これが本物だったら、と考えた瞬間、胃袋から吐き気が這い上がってきて口元を押さえた。
違う。
今はチカラも何も籠めなかった。
ただ普段通りに話すように言っただけにすぎない。
本当に人形を切り裂こうなんて、微塵も思ったりしていない。
完全に無意識。
なのに、切り裂かれ、無残にも地面に転がっている人形があるのも事実で。
「……違う、私使ってない……」
わざと魔力を封印したのに、言霊は封印しきれてなかったというのか。そもそも私は魔力も言霊もどんなチカラかハッキリと知らない。
実習に入る前にルイカにざっくばらんに説明を受けたものの、理論はほとんど分かっていないというのが本音だ。
「使ってないってどういうこと?」
「…………」
押し黙る私。
「つまり、今まで呪文も何も呟いてなかったから魔法が発動しなくて、呟いた途端魔法が発動出来るようになったと。理論もないようなものじゃない。今までの常識も全て覆すわ。ただ言葉を発しただけで魔法が使えるなんて。クーデターを考えてる人達や他国に渡ったら、ネガティブな発言をしただけでその通りに実行されてしまう。国一つ簡単に滅んでしまいかねないわ」
「…………」
大事になってしまった。
ここまで悲観的に扱われるほどに言霊は強いチカラだというのか。
ただ、自分が思ったことが実行されるだけだと思っていたのに。
「私、喋らない方がいいの……?」
喉を押さえる。言葉を発するだけで災厄を呼んでしまうなら、もう喋らない方がいいんじゃないか。
「違うわ! 現段階でカレンは制御が出来ていないだけ! 無意識にチカラを使ってしまっているだけよ!」
「制御出来るようになれば、私も普通に話せる?」
声が震えてしまう。
「話せるわよ……だから今は安心して、ネガティブな言動はなるべく避けて? ね?」
慰めの声も遠く聞こえる。
ネガティブな言葉を避けると言ったって、意識してない状態で使ってしまったのだから常に言葉を選んで話さなくてはいけない。そうしたら声を発さない方法で会話出来るようになればいいのではないか。
「どうすれば制御出来るようになる……?」
「んーそうねぇ……今のカレンは言霊のチカラに重点を置いて魔法を使っているようだから、言霊じゃなくてカレンが持っている魔力を意識的に使うことが第一条件になるんじゃないかしら。勿論、呪文を言うから言霊のチカラは最低限使うことにはなるけども、魔力九割、言霊一割の配分でなるべくなら言霊を使わないようにするのよ」
「呪文? って長いやつを言ったりするの?」
いくつかの単語を並べて呪文として発動しているアニメを思い出した。あんな感じに私も呪文を使うのか。それは興味がそそる。
「威力によって長い呪文を使う場合もあるけども、大体の呪文は短い単語で済むわ。さっきカレンが使った『切り裂け』とか、『切れ』とでも発動出来るわね。私の場合、カレンのように言霊のチカラを持ってないから切るイメージを先にしてるの。普通の人はカレンと違ってワンクッション置いて魔法を使っていると考えてもいいわ」
「言霊ってイメージなしで発動出来るってこと?」
「ちょっと違うわ。障害物を切り裂きたいって考えてから魔法を発動するというのが普通。言霊の場合、障害物を切り裂きたいと考えて発動するまでのタイムラグがないの」
「?」
頭にはてなマークが並ぶ。
全くルイカが言っている意味が理解出来なかった。
「あーもうちょっと噛み砕いて説明した方がいいわね」
ルイカも察してくれたようだ。
「お願いします」
すみませんね、理解力がなくて。
「魔力を使って魔法を発動する場合、イメージをして呪文を唱えて魔法を発動する。ここまでは大丈夫よね?」
こくこくと頷く。
「言霊の場合、イメージをする行程は特に必要なくて、直接呪文を発動して魔法を実行可能なの。例えば、水を出したいとカレンが思ったら『水』と呟いただけで水が出てくるの。たぶん、言霊はイメージと呪文発動が同時進行で行われる、と思っていいかもね」
ルイカの説明だと、普通の魔法発動は三行程で構成される。一、イメージする。二、呪文を唱える。三、魔法が発動される。
三つの行程を経て魔法が発動するのだが、言霊だと一と二の行程が同時進行で行えてしまい、魔法を発動するまでの時間が圧倒的に短いのだという。
数学に例えれば、問題を読んで中身の計算式を書かずに回答を先に書いてしまうと同じ。結果が同じであればいいとの感覚と同じなのだ。
「頭で考えるよりも身体が動く、みたいな感覚?」
「本能を優先にするとか野生感を大事にするとかそんなのかしらね」
「私、そんな本能的に魔法を使っていたんだ……」
「今からは、違うでしょ。今からは本能的じゃなくて理性的に魔法と向き合っていけばいいのよ。カレンの性格上、大分受け入れがたいかもしれないけど、何事も経験を積むのがいいのよ!」
「私もルイカみたくポジティブになれるかな?」
「なれるわよ! 私だって、カレンみたく後ろばかり考えていたし、変わろうと思った瞬間から人は変われるの!」
「カレン言ったじゃない。『私は元の世界に帰る』って。元の世界に帰るのは魔法を取得しないと転移魔法も時間操作系魔法も何も使えない。魔法が使えないとこの世界では暮らしていけないし。まず魔法が使えないと分かるとこの世界にいる意味は愚か、王城から追い出されかねない。使えないと判断した時の陛下は残酷だよ」
ごくりと息を飲むのが自分でも分かった。魔法にシビアな世界だというのも分かっている。
使えるようになるのが当然の世界。使えない人は普通の生活を送れないと言われているようなものだが、使えない人はどんな生活を送っているのだろうか。
想像も、したくない。
だけど、現実を見ないといけない。
魔法が使えないと、何も始まらない。
覚悟を、決めなくてはいけない。
すぅ、と息を吐き一言だけ呟き、目を閉じた。
「解除」
私は、魔法を使える。
魔法を使わないといけない。
自分に対して、魔法が使えると暗示を掛ける。
使えないと思って、使えなくしたのだから、その逆だって可能なはずだ。
「カレン?」
言霊で無理やり抑え込んでいた魔力を解放する。
未知なるチカラに恐怖して身体の奥底に閉じ込めてしまったチカラを。
閉じ込めたチカラを探す。
身体の中にあるはずのチカラを。
――あった。
胸に両手を当てて、引き出す。
辺り一面、眩い光に包まれる。
「カレン?!」
ルイカの元々大きい瞳がより一層大きく見開き、私の肩を掴もうとするが、何かに阻まれ叶わなかった。
「大丈夫だよ。これで魔法が使えるようになったから」
「それってどういう……」
「自分に掛けていた暗示を少しだけ解除したの。魔力がないと魔法は使えない。これからは言霊のチカラを抑え込んで、魔力だけで魔法を使いたいから」
魔力だけの魔法発動は遠回りになって面倒になるのは分かっている。
これからは、それが必要になってくるのだから取得しないといけない。
面倒であったとしても。
言霊はなるべく使わない。その制限を自分に掛けて、魔法を覚えるのも悪くない。
「言霊を使った魔法ならすぐに習得出来るのに敢えて遠回りするの?」
「言霊って実戦向きで、普通の魔法って実践だと思うんだよね。私は実戦じゃなくて、実践で使っていきたいから」
この国はまだ戦争状態にはないけども、いつかは私のチカラも必要になる時があるかもしれない。
だけど私はこのチカラを戦争の道具として使いたくない。偽善者と言われようが、使いたくないのだ。
「そう。じゃあ、明日からは実習と座学の両面で魔法について学んでいかないとね」
にっこりと微笑むルイカが少しだけ怖くて、
「お、お手柔らかにお願いします……」
控え味に言えば、
「さっきの啖呵の切りっぷりはどこ行ったのよー」
と笑われる始末だった。
ルイカに言われるがまま魔法を思い浮かべるものの、上手くいかない。
もちろん、最初から全てが上手くいくなんて思ってもいない。
この世界に来て、初めて魔法を使った後この世界の住民にバレるのを恐れて自分自身でチカラを封印してしまったのが今になると悪かった。
全くのゼロの状態で魔法を使おうとしたところで、魔法が発動するわけない。
初めて使った時は半信半疑の分もあったから何となく使えてしまった。だけど、今は違う。魔法の存在を知ったことで私の思考は魔法を認識しようとしなくなってしまった。
魔法という非科学的なモノを目の前にして、目を逸らしているだけというのは分かる。だからこそ、理解したくないのだ。
それが魔法習得の障害になっているのも十分理解している。
だが。
「これをこうして……」
「??」
説明を受けても全く分からない。
魔法理論は何となく分かった。いざ実行しようとしてもイメージが思うように構築出来ない。魔法は理論――座学で知識を身に付け、実践で知識とイメージ像を構築して発動させる。勿論、理論だけで魔法を発動させることも、理論を学ばずにイメージ像のみで魔法を発動出来る場合もある。言霊は後者に当たり、言霊の場合術者の想像力がキーポイントになってくる。
となれば、私は妄想が人より豊かだったということになる。結構凹む事案だが仕方ない。妄想が豊かであれば、魔法に有利なのだから。
「あーまず風系を習得しようとしたのがいけなかったのかなぁ……イメージしやすいと思ったんだけど……やっぱりカレンは言霊主体なのかなぁ……」
ブツブツ呟きつつ、ルイカは考え込んでしまった。
魔法が発動出来ない理由を私なりに考えてみた。
一つは私が理論も何も思い浮かべずに魔法を発動させようとしていること。
一つは私が魔法を発動したくないと思っていること。
ルイカの言うことが正しいとすれば――正しいのだろうけども、私の言霊のチカラが強いというなら、私が発動したくないと思えば思うほど魔法はいつまで経っても発動しない。
私は確認していた。
私の言葉にチカラが宿っているとしたら。
私が使いたくない、と言い続ければ、魔法は発動しない。
解除、と一言呟いた途端、魔法が使えるとは思わないが。一人きりになった時に試してみればいい。解除して、解除出来たらまた魔法を使えないように自分に暗示を掛けてしまえばいいのだ。
悪あがきも甚だしいが私は魔法を使いたくないのだ。
「カレン、何か呪文みたいなものを呟きながら魔法を発動してみて」
普通の人ならば、イメージして利き手を差し出せば発動するという。目の前の人が手を差し出しただけで魔法を使ってくるものだから、一般人を前にした魔法使用の際には必ず杖を使用することと規則が定められた。
杖は警告の役割を果たすものとして、魔法を使う者全てに着用が義務付けられている。
初心者は自分にあった杖を持っていないので、原則的に屋外での魔法の使用は禁じられている。杖は魔法補助の役割も担っているため、杖を持たずに魔法を使用するということは術者本人が持つチカラのみの発動になる。術者個人の能力を国は把握しておく必要があるため、素手での魔法発動が最低条件なのだ。
魔法発動はイメージと理論が全てと魔法実習室へやってきたルイカはそう言った。
言葉――呪文もまた、魔法発動のための補助でしかない。ただし、言霊と呼ばれるチカラを持った人は除く、だ。ルイカは私の言霊のチカラを補助として魔法を発動出来るのではと考えたようだ。
ふぅ、と溜息を一つ吐き、私は再び右手を前に構えた。
途端、動き出す自動式人形。ジグザグに動く自動人形を壊せば次の段階に移る。いつまで魔法実習をするのか分からないが、昼前には終わるだろう。
「切り裂け」
「…………」
静寂。
イメージもしていない何も考えてない状態で、人形が切り裂かれるはずもない。
ほら、暗示はまだ継続している。
まだ誤魔化せる。私は魔法が使えない、と。
だが。
――ごとり。
鈍い音を立てて、人形の胴体が縦半分に分かれ、左右それぞれに転がった。
「え?」
「―――っ?!」
ルイカのまんまるの大きな瞳が更に大きくなる。
私は咄嗟に自分の口を押さえた。たった四文字で縦半分に裂かれてしまった人形。
何も、何も人形が切り裂かれるイメージを一つもしていない。
これは、魔法じゃない。
これは、なんだ。
「これが……言霊のチカラ……初めて見るけど、結構エグいわね」
ルイカはエグいの一言で片付けてしまったが、非常にショッキングな出来事だ。これが本物だったら、と考えた瞬間、胃袋から吐き気が這い上がってきて口元を押さえた。
違う。
今はチカラも何も籠めなかった。
ただ普段通りに話すように言っただけにすぎない。
本当に人形を切り裂こうなんて、微塵も思ったりしていない。
完全に無意識。
なのに、切り裂かれ、無残にも地面に転がっている人形があるのも事実で。
「……違う、私使ってない……」
わざと魔力を封印したのに、言霊は封印しきれてなかったというのか。そもそも私は魔力も言霊もどんなチカラかハッキリと知らない。
実習に入る前にルイカにざっくばらんに説明を受けたものの、理論はほとんど分かっていないというのが本音だ。
「使ってないってどういうこと?」
「…………」
押し黙る私。
「つまり、今まで呪文も何も呟いてなかったから魔法が発動しなくて、呟いた途端魔法が発動出来るようになったと。理論もないようなものじゃない。今までの常識も全て覆すわ。ただ言葉を発しただけで魔法が使えるなんて。クーデターを考えてる人達や他国に渡ったら、ネガティブな発言をしただけでその通りに実行されてしまう。国一つ簡単に滅んでしまいかねないわ」
「…………」
大事になってしまった。
ここまで悲観的に扱われるほどに言霊は強いチカラだというのか。
ただ、自分が思ったことが実行されるだけだと思っていたのに。
「私、喋らない方がいいの……?」
喉を押さえる。言葉を発するだけで災厄を呼んでしまうなら、もう喋らない方がいいんじゃないか。
「違うわ! 現段階でカレンは制御が出来ていないだけ! 無意識にチカラを使ってしまっているだけよ!」
「制御出来るようになれば、私も普通に話せる?」
声が震えてしまう。
「話せるわよ……だから今は安心して、ネガティブな言動はなるべく避けて? ね?」
慰めの声も遠く聞こえる。
ネガティブな言葉を避けると言ったって、意識してない状態で使ってしまったのだから常に言葉を選んで話さなくてはいけない。そうしたら声を発さない方法で会話出来るようになればいいのではないか。
「どうすれば制御出来るようになる……?」
「んーそうねぇ……今のカレンは言霊のチカラに重点を置いて魔法を使っているようだから、言霊じゃなくてカレンが持っている魔力を意識的に使うことが第一条件になるんじゃないかしら。勿論、呪文を言うから言霊のチカラは最低限使うことにはなるけども、魔力九割、言霊一割の配分でなるべくなら言霊を使わないようにするのよ」
「呪文? って長いやつを言ったりするの?」
いくつかの単語を並べて呪文として発動しているアニメを思い出した。あんな感じに私も呪文を使うのか。それは興味がそそる。
「威力によって長い呪文を使う場合もあるけども、大体の呪文は短い単語で済むわ。さっきカレンが使った『切り裂け』とか、『切れ』とでも発動出来るわね。私の場合、カレンのように言霊のチカラを持ってないから切るイメージを先にしてるの。普通の人はカレンと違ってワンクッション置いて魔法を使っていると考えてもいいわ」
「言霊ってイメージなしで発動出来るってこと?」
「ちょっと違うわ。障害物を切り裂きたいって考えてから魔法を発動するというのが普通。言霊の場合、障害物を切り裂きたいと考えて発動するまでのタイムラグがないの」
「?」
頭にはてなマークが並ぶ。
全くルイカが言っている意味が理解出来なかった。
「あーもうちょっと噛み砕いて説明した方がいいわね」
ルイカも察してくれたようだ。
「お願いします」
すみませんね、理解力がなくて。
「魔力を使って魔法を発動する場合、イメージをして呪文を唱えて魔法を発動する。ここまでは大丈夫よね?」
こくこくと頷く。
「言霊の場合、イメージをする行程は特に必要なくて、直接呪文を発動して魔法を実行可能なの。例えば、水を出したいとカレンが思ったら『水』と呟いただけで水が出てくるの。たぶん、言霊はイメージと呪文発動が同時進行で行われる、と思っていいかもね」
ルイカの説明だと、普通の魔法発動は三行程で構成される。一、イメージする。二、呪文を唱える。三、魔法が発動される。
三つの行程を経て魔法が発動するのだが、言霊だと一と二の行程が同時進行で行えてしまい、魔法を発動するまでの時間が圧倒的に短いのだという。
数学に例えれば、問題を読んで中身の計算式を書かずに回答を先に書いてしまうと同じ。結果が同じであればいいとの感覚と同じなのだ。
「頭で考えるよりも身体が動く、みたいな感覚?」
「本能を優先にするとか野生感を大事にするとかそんなのかしらね」
「私、そんな本能的に魔法を使っていたんだ……」
「今からは、違うでしょ。今からは本能的じゃなくて理性的に魔法と向き合っていけばいいのよ。カレンの性格上、大分受け入れがたいかもしれないけど、何事も経験を積むのがいいのよ!」
「私もルイカみたくポジティブになれるかな?」
「なれるわよ! 私だって、カレンみたく後ろばかり考えていたし、変わろうと思った瞬間から人は変われるの!」
「カレン言ったじゃない。『私は元の世界に帰る』って。元の世界に帰るのは魔法を取得しないと転移魔法も時間操作系魔法も何も使えない。魔法が使えないとこの世界では暮らしていけないし。まず魔法が使えないと分かるとこの世界にいる意味は愚か、王城から追い出されかねない。使えないと判断した時の陛下は残酷だよ」
ごくりと息を飲むのが自分でも分かった。魔法にシビアな世界だというのも分かっている。
使えるようになるのが当然の世界。使えない人は普通の生活を送れないと言われているようなものだが、使えない人はどんな生活を送っているのだろうか。
想像も、したくない。
だけど、現実を見ないといけない。
魔法が使えないと、何も始まらない。
覚悟を、決めなくてはいけない。
すぅ、と息を吐き一言だけ呟き、目を閉じた。
「解除」
私は、魔法を使える。
魔法を使わないといけない。
自分に対して、魔法が使えると暗示を掛ける。
使えないと思って、使えなくしたのだから、その逆だって可能なはずだ。
「カレン?」
言霊で無理やり抑え込んでいた魔力を解放する。
未知なるチカラに恐怖して身体の奥底に閉じ込めてしまったチカラを。
閉じ込めたチカラを探す。
身体の中にあるはずのチカラを。
――あった。
胸に両手を当てて、引き出す。
辺り一面、眩い光に包まれる。
「カレン?!」
ルイカの元々大きい瞳がより一層大きく見開き、私の肩を掴もうとするが、何かに阻まれ叶わなかった。
「大丈夫だよ。これで魔法が使えるようになったから」
「それってどういう……」
「自分に掛けていた暗示を少しだけ解除したの。魔力がないと魔法は使えない。これからは言霊のチカラを抑え込んで、魔力だけで魔法を使いたいから」
魔力だけの魔法発動は遠回りになって面倒になるのは分かっている。
これからは、それが必要になってくるのだから取得しないといけない。
面倒であったとしても。
言霊はなるべく使わない。その制限を自分に掛けて、魔法を覚えるのも悪くない。
「言霊を使った魔法ならすぐに習得出来るのに敢えて遠回りするの?」
「言霊って実戦向きで、普通の魔法って実践だと思うんだよね。私は実戦じゃなくて、実践で使っていきたいから」
この国はまだ戦争状態にはないけども、いつかは私のチカラも必要になる時があるかもしれない。
だけど私はこのチカラを戦争の道具として使いたくない。偽善者と言われようが、使いたくないのだ。
「そう。じゃあ、明日からは実習と座学の両面で魔法について学んでいかないとね」
にっこりと微笑むルイカが少しだけ怖くて、
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