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37.家出は続くよ

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 聞いたところによると、今王宮はラインハルトとコンラート、ナディアたちなど若い人が宰相のバルディティアの助けを借りて頑張って盛り立ててくれている。
 王と王妃の不在ということで大臣側も協力的だし、代替わりの遅れに懐疑的な派閥や、早々に代替わりを果たして今の議会の高齢化に置いていかれそうになっている若い層からも支持を得ているらしい。

 そんないい風が吹いている中、『やっぱりアテクシが居ないとだめよね!』と言わんばかりに肩で風きって帰るほどの厚顔無恥さは持ち合わせてない。
 流石に帰ってきた重役に『あなたの席ないです』とは言えないだろうし、雰囲気ぶち壊しだろう。
 やる気になっている皆にも申し訳ない。
 ジークハルトと話し合い、一応王宮に手紙を送った上で、このまま暫くは二人で放浪生活をすることにした。家出はメンバーが二人と一匹になって続行である。



「なあ、まじでコイツ連れてくのか?少なくとも城に帰るまではソーニャに預けるって手もあるぞ」

「ウウゥ~…………ガウッ!」

  ガブッ。

「うわっ、噛み付いた!コイツ凶暴すぎだろ!」

「ジークが悪いんだろ。何度も言うけど、ノエルはうちの子だから俺が責任取るって決めてるんだよ。嫌ならお前一人で帰れば??」

 ガーン、とショックを受けてジークハルトが灰になる。
 ここぞとばかりにノエルがジークの腕をガブガブしてるけど、やめようね。竜神の血を引くジークの血なんか飲んだら、ますますステータスがおかしなことになってしまう。
 
 ちなみに、ジークハルトも動きやすいよう冒険者登録はきっちり済ませてる。
 これで、二人でフラフラしてもなんとかなるだろう。
 ソーニャがちゃんとカモフラージュもかけてくれてるから、すぐに竜王だとバレることもない。
 もしもバレたら、大変なことだよな。こないだのジークハルトのデタラメな強さ見てると、ますますそう思う。
 あんな一人で国の1つ2つ吹っ飛ばせそうな爆弾人間が黙って自分の国に入り込んでるなんて恐怖でしかない。むしろ公式訪問じゃないからこそ、何されるかわかったもんじゃない。
 家出は今まで以上に地味に、穏やかに、目立たずにこっそり行うことを誓う俺だった。

「わかった、コイツは連れてっていい。だけど、最低限のイチャイチャはさせてもらうぞ」

「はいはい、節度ある範囲でその場のTPOをわきまえてくれればな」

 結局のところ気になっていたのはそこだったらしく、ジークハルトは俺が許可を出すと後ろからハグして首元に顔を埋めてきた。
 番は項からいい香りを発するらしく、竜人の代表的なイチャ付き方のひとつだ。
 一歩間違えると人前ではアウトと思うんだが、久しぶりだし大目に見てやろう。
 
「あー、リディだ。リディのにおい…………」

「変態ぽいことは言うなよ。匂いだけだからな」

「わかってる。舐めたり噛んだりしたいけど、今は我慢だろ?」

 チラリ、と上目遣いで見上げてくる金色の目が、『夜なら好きにしていいんだよな?』と語っている。
 俺はついつい赤くなってしまうが、そこはまあ……夫婦なので。完全プライベートな空間であれば、やぶさかではない。


「た、隊長~~~!!!!!」

「人妻だってマジだったんすか…………!!!!」

「俺たちのアイドルが~~~!!!!」

 そんな俺とバークハルトの様子を目にして、親衛隊、もとい公安ギルド管理課のメンバーたちは滝の涙を流してむせび泣いている。
 一応ギルドにはお世話になったから、ソーニャへの挨拶がてら顔を出したんだが、こいつらこんな調子で大丈夫だろうか。

 ちなみに、あの後エルマンは辺境伯としての権力をゴリ押ししてネモの領主を正式に訪問し、この街の警備体制の調査と見直しを提案した。
 辺境伯という爵位だけでも偉いのに、アルディオンとの太いパイプを持つエルマンには、国防の観点から強い権力が与えられているらしい。
 いざという時に国防に役立つ人材を周辺に確保させるのも必要なことと考える王家の後押しもあって、元々一介の男爵でしかなかったネモの領主は、あっさり腹を見せて降伏した。
 元々ちょっとしたお小遣い稼ぎ程度の不正しかやってなかったみたいだから、優秀な息子に代替わりさせて、今後は相談役として然るべきところの監視がつくあたりで手打ちとなったと聞く。
 若い層には頑張ってほしいよな、ほんと。

 街の巡回にあたる衛兵たちに関しても、指導役としてきちんとした人員が配置されることになった。
 エルマンの管理するカルノ砦からの派遣なので、実力・礼節ともに問題のない人物ばかりだろう。
 サイラスのせいで手薄になった人材には、一部希望者を募って公安部隊のアルバイトから補填する予定になっている。これも面接をして適正を見た上で判断するらしいけど、何人かは内定が決まっているらしい。
 何とかおさまるところにおさまりそうで、一安心というところか。

 
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