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32.常識はずれ
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ソーニャの指にはめられた魔導具が光る。黒い触手が無数に飛び出して、あっという間に全身を拘束された。
気付いたと同時に剣を抜いて斬ろうとしたが、叶わない。いつもは瞬時に抜ける流星剣が、鞘ら1ミリたりとも動かなかったのだ。
その一瞬の隙で、俺を絡め取るには充分すぎる時間だったのだろう。
「ダメだよリディエール、あんなわかりやすい手じゃあ」
ソーニャの姿が闇に溶けて、その下からは心から嬉しそうな顔をしたサイラスが姿を現した。
くそ、いつから入れ替わってたんだ。というか、何故こんなことが可能になる???ワープの暗号もそうだし、そもそもここはボス部屋なのだ。パーティー登録しないと絶対に入ってこれない場所なのに。
「ふふふ、なんでオレが入ってこれるのかって顔してるね。それはねー、じゃじゃーん、これでーす!♪」
サイラスは誇らしげに俺の目の前に2つのものを差し出した。
それは、サイラスの冒険者カードと――――白くてたおやかな右手首までの右手だった。塗ってある緑のマニキュアが誰のものかなんて。
「みてみて、この手でさぁ、魔力をちょっとアイツに似せて……サラサラ~!!!」
サイラスの冒険者カードがどんどん書き換えられていく。ソーニャのギルド長としての能力。
これを使って、コイツは勝手に俺とパーティー登録を組んだのだ。
「凄いデショ!?アイツの手なんてゲーって感じだけど、超便利だよね♪」
「な……んで……」
ソーニャはけしてコイツに遅れを取ったりなんかしないはずだ。再生中だったサイラスが先に動いてたソーニャに追いつくなんてことはないはずなのに。
「秘密~って言いたいとこだけど、リディエールだからね。二人共さぁ、寄ってたかって一途な俺をいじめてくれたじゃない???その度に俺は再生してたけど、位置を把握して集合できるのって何も肉だけじゃないんだよね」
「まさか……」
「そ♪二人の服に飛び散ってる血だって、俺にとっては自分の一部なんだよ。だから二人の場所なんかすぐわかった。適当なワープに飛んでさ、リディの顔してソーニャに『道忘れちゃった~』って言ったら、すぐに信じたよ。不意を突かれるとどんな高レベでも簡単だよねぇ」
ポタ、ポタと白い手首から赤い血が滴る。その姿はどこか現実感がなかった。
俺だってSランクの冒険者だ。今まで何度もおぞましい光景だって見てきたし、さっきまでコイツをなんども切り刻みだってした。
それを思えばこいつからしたらこんなことなんて『ちょっと手首を借りた』ぐらいの気持ちなんだろうし、きっと昔タッドの指やエミーリアの目を取った時もそんな感じだったんだろう。
わかってた。こいつには人のこころがないってことも。俺がどんなことで苦しんで、どんなことで喜ぶかもわからないってことも。
だから―――――こんなことぐらいで、俺が傷つくっていうことも、きっとわからないんだ。
「……………かえせ」
「ん?なーにリディ」
「ソーニャの手、返してくれ………アイツ、今どうしてるんだ?その手を戻して、ソーニャを助けろ」
明らかに無茶な要求をする俺に、サイラスは唇を尖らせて不満げな顔をする。
「えー、やだよ。そんなことしたらメチャクチャ反撃されるもん」
当然の反応だ。だけど、これ以外もう方法がない。
きっとソーニャはちょっとやそっとでは目を覚まさないようにされているだろう。
手首を失った状態で放置されていたら、失血死してしまうかもしれない。
悔しい、絶対に折れたくない。
だけど、今他に方法が思いつかないんだ。
例えどんな目に遭おうと、いつも俺を心配して助けてくれるソーニャを見捨てるなんて出来ない。
「そしたら!!!!!!!!!!!!!…………言う通りにしてくれたら、俺はお前と一緒に行ってもいい」
それは悪魔との契約。
サイラスは嬉々として手のひらを返し、あっさりと条件を呑んだ。
ソーニャは異空間に詰め込まれていたらしく、ズルズルとサイラスに引きずり出されてくる。
サイラスは何やらソーニャに仕掛けを施して、その後で右手をくっつけた。恐らくすぐには目を覚まさないようにと、万一の時に反撃されないようにしたのだろう。
ソーニャは大量の血を失って青褪めた顔をしていたが、何とか命はあるようだ。
「さて、じゃあ行こうかリディエール。ちょっとの間、我慢してねぇ」
どうやら奴の異空間に入れて運ばれていくようだ。
その異空間はまるで工房のようで、無数の実験動物が鳴きもせずに檻に収まっている。もしかしたら、サイラスに懐いているのかもしれない。優しく大事に飼育しているのだ。いつか魂を吸う日のために。
(ジーク………お前、ほんと遅いよ。こんなとこじゃ、いくらお前だって迎えにこれねぇじゃん)
もう二度と誰にも会えないかもと思って浮かんだのは、ジークのことだった。
あいつ、今どこにいんのかな。もう俺がこの街にいたことぐらいわかったかな。
でも、流石のあいつだって、異空間までは追いかけてこれない。だって、俺がアイツを撒く時にその方法をする使ったから。
「ジーク……俺のこと、がっかりさせんなよ………!」
絞り出すように呟くと、不思議な感覚がした。
(まただ。リンクしてる。チューニングが―――――)
そう思うと同時に、グラグラと視界が揺れた。
そして、臓腑が震えるほどの爆音と共に、ボス部屋の重厚な扉が弾け飛ぶ。
常人では破壊することなど不可能なはずのダンジョンを、その力は常識という概念ごと破壊し尽くしていく。
こんな笑っちゃうぐらいやばいやつ、俺は一人しか知らない。
「待たせた、リディ!!!!!!!!!―――――――――遅れて悪ぃ」
気付いたと同時に剣を抜いて斬ろうとしたが、叶わない。いつもは瞬時に抜ける流星剣が、鞘ら1ミリたりとも動かなかったのだ。
その一瞬の隙で、俺を絡め取るには充分すぎる時間だったのだろう。
「ダメだよリディエール、あんなわかりやすい手じゃあ」
ソーニャの姿が闇に溶けて、その下からは心から嬉しそうな顔をしたサイラスが姿を現した。
くそ、いつから入れ替わってたんだ。というか、何故こんなことが可能になる???ワープの暗号もそうだし、そもそもここはボス部屋なのだ。パーティー登録しないと絶対に入ってこれない場所なのに。
「ふふふ、なんでオレが入ってこれるのかって顔してるね。それはねー、じゃじゃーん、これでーす!♪」
サイラスは誇らしげに俺の目の前に2つのものを差し出した。
それは、サイラスの冒険者カードと――――白くてたおやかな右手首までの右手だった。塗ってある緑のマニキュアが誰のものかなんて。
「みてみて、この手でさぁ、魔力をちょっとアイツに似せて……サラサラ~!!!」
サイラスの冒険者カードがどんどん書き換えられていく。ソーニャのギルド長としての能力。
これを使って、コイツは勝手に俺とパーティー登録を組んだのだ。
「凄いデショ!?アイツの手なんてゲーって感じだけど、超便利だよね♪」
「な……んで……」
ソーニャはけしてコイツに遅れを取ったりなんかしないはずだ。再生中だったサイラスが先に動いてたソーニャに追いつくなんてことはないはずなのに。
「秘密~って言いたいとこだけど、リディエールだからね。二人共さぁ、寄ってたかって一途な俺をいじめてくれたじゃない???その度に俺は再生してたけど、位置を把握して集合できるのって何も肉だけじゃないんだよね」
「まさか……」
「そ♪二人の服に飛び散ってる血だって、俺にとっては自分の一部なんだよ。だから二人の場所なんかすぐわかった。適当なワープに飛んでさ、リディの顔してソーニャに『道忘れちゃった~』って言ったら、すぐに信じたよ。不意を突かれるとどんな高レベでも簡単だよねぇ」
ポタ、ポタと白い手首から赤い血が滴る。その姿はどこか現実感がなかった。
俺だってSランクの冒険者だ。今まで何度もおぞましい光景だって見てきたし、さっきまでコイツをなんども切り刻みだってした。
それを思えばこいつからしたらこんなことなんて『ちょっと手首を借りた』ぐらいの気持ちなんだろうし、きっと昔タッドの指やエミーリアの目を取った時もそんな感じだったんだろう。
わかってた。こいつには人のこころがないってことも。俺がどんなことで苦しんで、どんなことで喜ぶかもわからないってことも。
だから―――――こんなことぐらいで、俺が傷つくっていうことも、きっとわからないんだ。
「……………かえせ」
「ん?なーにリディ」
「ソーニャの手、返してくれ………アイツ、今どうしてるんだ?その手を戻して、ソーニャを助けろ」
明らかに無茶な要求をする俺に、サイラスは唇を尖らせて不満げな顔をする。
「えー、やだよ。そんなことしたらメチャクチャ反撃されるもん」
当然の反応だ。だけど、これ以外もう方法がない。
きっとソーニャはちょっとやそっとでは目を覚まさないようにされているだろう。
手首を失った状態で放置されていたら、失血死してしまうかもしれない。
悔しい、絶対に折れたくない。
だけど、今他に方法が思いつかないんだ。
例えどんな目に遭おうと、いつも俺を心配して助けてくれるソーニャを見捨てるなんて出来ない。
「そしたら!!!!!!!!!!!!!…………言う通りにしてくれたら、俺はお前と一緒に行ってもいい」
それは悪魔との契約。
サイラスは嬉々として手のひらを返し、あっさりと条件を呑んだ。
ソーニャは異空間に詰め込まれていたらしく、ズルズルとサイラスに引きずり出されてくる。
サイラスは何やらソーニャに仕掛けを施して、その後で右手をくっつけた。恐らくすぐには目を覚まさないようにと、万一の時に反撃されないようにしたのだろう。
ソーニャは大量の血を失って青褪めた顔をしていたが、何とか命はあるようだ。
「さて、じゃあ行こうかリディエール。ちょっとの間、我慢してねぇ」
どうやら奴の異空間に入れて運ばれていくようだ。
その異空間はまるで工房のようで、無数の実験動物が鳴きもせずに檻に収まっている。もしかしたら、サイラスに懐いているのかもしれない。優しく大事に飼育しているのだ。いつか魂を吸う日のために。
(ジーク………お前、ほんと遅いよ。こんなとこじゃ、いくらお前だって迎えにこれねぇじゃん)
もう二度と誰にも会えないかもと思って浮かんだのは、ジークのことだった。
あいつ、今どこにいんのかな。もう俺がこの街にいたことぐらいわかったかな。
でも、流石のあいつだって、異空間までは追いかけてこれない。だって、俺がアイツを撒く時にその方法をする使ったから。
「ジーク……俺のこと、がっかりさせんなよ………!」
絞り出すように呟くと、不思議な感覚がした。
(まただ。リンクしてる。チューニングが―――――)
そう思うと同時に、グラグラと視界が揺れた。
そして、臓腑が震えるほどの爆音と共に、ボス部屋の重厚な扉が弾け飛ぶ。
常人では破壊することなど不可能なはずのダンジョンを、その力は常識という概念ごと破壊し尽くしていく。
こんな笑っちゃうぐらいやばいやつ、俺は一人しか知らない。
「待たせた、リディ!!!!!!!!!―――――――――遅れて悪ぃ」
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